西九州新幹線、佐賀県「フル規格」猛反対の本質 フリーゲージトレインの技術めぐり国と激論

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川島課長は「基本的な走行試験はクリアしたが、耐久性つまり営業車両としての実用化という点で大きな壁にぶち当たった。技術開発がもう一歩という見方ができるかもしれないが、非常に難しいというのがわれわれの認識」と繰り返し説明したが、山下部長は「技術的に難しいのではなく国に“やる”という姿勢がないだけ」と納得がいかない様子だった。

県は「時速270kmであとわずかなら、時速200kmならいけるのではないか」と考えている。これに対して国は「時速200kmであっても時速270kmと同様にFGTの技術開発は困難」とかたくなな姿勢を貫く。「通常の新幹線と同様に厳格な安全性が求められ、現時点で実用に耐えうるFGTの開発は困難」というのが国の立場だ。もちろん県は納得していない。

では、時速200kmのFGTにはどんなメリットがあるのだろうか。新幹線区間の速度が遅くなるため、対面乗り換えスキームよりも博多ー長崎間の所要時間が4分長くなるとして国は否定的だが、県は4分よりも短縮できる可能性を示唆する。

国はFGTが時速200kmの場合、通常の新幹線よりも速度が遅いことから新鳥栖―博多間は新幹線には乗り入れできず、在来線を走ると想定しているが、県は「職員を九州新幹線の新鳥栖ー博多間の列車に乗せてアプリで速度を測ったら最高でも時速180km程度だった」として、時速200kmのFGTは乗り入れ可能とする。そうすれば、対面乗り換えとの差は4分よりも縮小する。これには国も「現時点でこの区間は乗れるという前提を置いて議論をするのは難しい」として明確な反論はできなかった。

国と県、考え方の違いが浮き彫りに

さらに、国はフル規格になれば武雄温泉だけでなく博多でも乗り換えが不要になるというメリットを挙げたが、これにも県は猛反発した。国の主張は関西と長崎を行き来する旅客の利便性であって、「フル規格になれば今度は県内の利用者が在来線から新幹線に乗り換える負担が発生する。在来線と新幹線はホームも改札も別で階段の上り下りが必要となる。それと同じことを川島課長さんはそちらの立場からおっしゃっている」。対面乗り換えを強いられるのは誰なのか。両者の考え方の違いが浮き彫りになった。

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このように今回の協議はFGTの議論に終始したが、意外にも県は「FGTにしたいと言っているわけではない」という発言を随所で繰り返した。最高時速200kmのFGTの開発は絶対条件ではなく、やりようによってはフル規格でも受け入れられるわけだ。

また、今回の協議であまり議論にならなかったが、フル規格南回りルート総延長約51kmのうち、約16kmは福岡県内を走ることが国から示された。つまり南回りルートでは福岡県も整備費用を負担することになるわけだ。費用負担の当事者が増えるという点でも南回りルートは国としても避けたい。

こう考えると、国がもくろむ佐賀駅を通るルートがやはり本命ということになるが、そもそも現状のままでもさほど不都合はないというのが佐賀県の考えであり、フル規格化されるとその費用負担や在来線の扱いが県にとっての不安材料となる。

事態を打開するには国が県にどんな交渉材料を提示できるかがカギとなる。「われわれはフル規格新幹線を必要としていない」という県の主張を覆すのはFGTの開発以上に難儀しそうだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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