金融政策の限界を素直に認めたラガルドECB総裁 需要が低調なら「インフレを潰す」ことにリスク

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別の言い方をすれば「中央銀行に期待すべき局面ではない」というラガルド総裁の本音が透けて見える。金融市場はこれからも何かにつけてタカ派的な期待をECBにもぶつけるであろうが、こうした発言を見るかぎり、その期待はスルーされて終わるだろう。

そうした金融政策の限界を踏まえたうえで、ユーロ圏とアメリカでは経済の地力の強さが異なるという事実もECBとFRB(連邦準備制度理事会)の物価観の違いをもたらしているといえる。

2月3日、政策理事会後の会見でラガルド総裁は「コロナ前の需要と比較してユーロ圏はおおむねフラットだが、アメリカは30%も多い」と発言している。これは拡張財政の規模に応じた結果だとラガルド総裁は述べており、その差がFRBの早期利上げ観測の背景にあると主張している。裏を返せば、穏当な拡張財政にとどまったユーロ圏では需要が弱いので早期利上げは不要という、当然の主張だ。

英国やアメリカほど賃金の上がらないユーロ圏

同日の会見でラガルド総裁は、直前に開催されたイングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)と比較する質問も受けた。2月3日のMPCでBOEは保有資産の縮小と利上げを決定している。この点、ラガルド総裁はあくまで今の英国はEU離脱に伴う非英国人の脱出が労働力不足をいっそう深刻化させており、これが賃金上昇を焚きつけていると、ユーロ圏との構造的な違いを指摘した。

実際、ユーロ圏では失業率が過去最低(2021年12月で7.0%)まで低下しても、英国やアメリカほど賃金上昇が話題になっていない。もちろん、賃金は景気の遅行系列であるため、政策理事会は今後の賃金交渉状況を踏まえ、警戒を怠らない姿勢ではあるが、少なくとも現時点でFRBやBOEと同じ温度感で金融引き締めを検討できる状況にはないと、理解できる。

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