将来に絶望する若者に知ってほしい幸福の捉え方 「未来があることは不幸」と考えないで

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――内村鑑三の『後世への最大遺物』という本があります。死ぬ時に後世に何を残せるかを話した講演をまとめた本です。

まず、彼があげているのはお金です。お金があればたしかに世の中をよくするために使うことができます。しかし、お金は誰にでも残せるものではないという意味で「最大」遺物にはなりません。

2つ目は事業です。橋を作るとか道を作るといったことです。橋がかかれば島の生活が変わります。いいことばかりではありませんが、そういう事業を残すことは大事だと内村はいいます。でも、これも誰もが残せるものではないという意味で「最大」遺物ではない。

3番目は思想です。思想は世界を変える力があります。私は哲学者なので思想を残したいと思いますが、これも「最大」遺物ではありません。

「偉業を成し遂げる」必要はない

『絶望から希望へ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

それでは、最大遺物とは何か。私たちが生きたという事実。これなら誰でも残せます。こんな人が生きていたということは、後の人が伝えていくことができます。私たちの生き方で、後世の人に勇気を与えることができるということです。

ただし、別に偉業を成し遂げなくてもいい。自分が好きでやっていることが、巡り巡って人の役に立つというのが理想です。何か特別なことをしなくても、「こんな人が生きていた」という事実で、後世の人に貢献できるのです。

もちろん、後世の人だけでなく、今の時代の人にも、あなたが「生きていること」で貢献できます。そのように貢献感を持てた時、自分に価値があると思え、課題に立ち向かう勇気が持てます。

岸見 一郎 哲学者(監修)
きしみ いちろう / Ichiro Kishimi

1956年、京都生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋古代哲学史専攻)。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健と共著、ダイヤモンド社)、『幸福の哲学』(講談社)、『今ここを生きる勇気』(NHK出版)、『ほめるのをやめよう リーダーシップの誤解』(日経BP)など多数。

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