水ビジネスの幻想と現実[3]--キーパーソンに聞く/三井物産、丸紅、産業革新機構
■丸紅
電力インフラ部門部門長補佐兼環境インフラプロジェクト部長 伊吹洋二氏
--丸紅における水事業の位置づけは。
総合商社の中で事業の歴史はもっとも長いが、今後はより積極的に事業を拡大させていく計画だ。新中期経営計画の中でも水インフラを戦略重点分野に掲げており、3~5年内に(カバー人口で)世界の上位10社に入るのが大きな目標だ。
--そのための具体的な事業戦略は。
地域別に言えば、まず中南米での地盤をもっと厚くしたい。すでに中南米はメキシコ、チリ、ペルーの3カ国で水事業に関わり、チリでは完全な民営水道会社を100%子会社として経営している。同地域での地盤や経験をいかし、新たな出資・買収も検討中だ。
加えて、今後は中国でのビジネス拡大に力を入れる。中国は国をあげて汚水処理場の整備を進めているので、昨年末に現地の安徽国禎環保の株式30%を取得した。安徽は中国9位の下水処理事業会社で、みずから施設を所有するBOTやTOT(=自治体から既存施設を買い収って運営すること)を中心として、20カ所以上の施設運営に携わっている。設備も自前で作り、現地企業の中でもコスト競争力が高い。
安徽国禎環保が手掛ける上海の下水処理施設
安徽は下水処理事業で中国上位3社入りを目指す一方、産業排水やリサイクル水分野への進出にも意欲を見せている。同社を中国における水ビジネスの戦略企業と位置づけ、その事業拡大をサポートすることで中国のインフラ需要に応えていく。安徽とタッグを組んで、他のアジア地域にも出て行きたい。
--なぜ、現地企業への出資という形態をとったのか。
日本企業が直接入っていくのは非常に難しい。自治体との関係やコスト競争力、中国内での実績など、いろいろな面でハードルが高い。加えて、下水処理場の場合は日本から持って行くような設備もあまりなく、日本の商社の強みが発揮しにくい。
--中国で上水分野のビジネスを狙うつもりは?
浄水場はすでにインフラ整備が一巡し、新設の案件自体があまりない。上水関連のビジネスチャンスとしては、取水から浄水、給配水、消費者からの料金徴収まで一手に手がけるコンセッション(=民営水道会社の経営)がある。すでに大都市部では、民間企業が既存の水道関連施設を半分買い取って、自治体と一緒に水道事業を経営している。ヴェオリアを例に取ると、こうしたコンセッションビジネスを上海浦東区や深セン市などで行っている。
ただし、それをわれわが中国でやるのは難しい。入札参加資格などの問題もあるが、一番のネックは水道料金。英国やチリとは違い、中国では自治体とコンセッション契約を結ぶ際、将来の水道料金改定に関する明確な規定がない。つまり、インフレが進行しても、水道料金を上げられない可能性もあるということ。経験が豊富な欧州の水メジャーは料金改定のリスクをマネージしているが、商社の投資対象としては不確実要素が大きすぎる。