「セレンディピティ」の芽を潰す残念な上司の悪弊 「本当のことを言うと危険」な環境こそ危険だ

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実際には顧客の多くは複数の金融商品を購入するほどの資金力はなかった。しかしウェルズファーゴの経営幹部は、そうしたトレンドに気づいていた現場の話に耳を傾けなかった。それどころか社員にはできるだけ多くの商品を売ることを強要し、できなければクビだと伝えていた。

それがどれほど心理的圧力になったか、想像に難くない。セールス部門は有能であることを示すため、道徳的一線を超え始めた。顧客に噓をつき、また経営陣をだますために架空の顧客をつくった。

最終的にこうした偽りの成功のメッキは剥がれたが、それまでに膨大な時間と労力が無駄になり、また会社と顧客の信頼感はもちろん社員と経営陣の信頼感も失われた。

ピクサーが作った良い環境とは

問題はインセンティブが歪んでいたことだけではない。反対意見を言うのは危険だと、社員たちが感じていたことだ。

心理的安全性の高い職場なら、経営陣は「社員が消極的な理由は何か、直接聞いてみよう」と考えたはずだ。しかしウェルズファーゴの文化は「社員が熱心でなければ、さらに尻を叩けばいい」という考えに近かった。

対照的なのが、批判的フィードバックと率直さを重んじる環境を生み出したピクサーだ。

共同創業者(かつ元社長)のエドウィン・キャットマルをはじめ、リーダーは率直に自らの失敗を認める。キャットマルは謙虚さ、自分も間違いを犯すこと、そして周囲を巻き込むような好奇心を体現していた。

こうした文化を反映して、ミーティングはお互いに批判をし、率直なフィードバックを返しやすいように運営されていた。会議の冒頭で「ピクサーの映画は1つ残らず、初期段階では駄作だった」と認めるというのが1例だ。それによってメンバーは反対意見や批判的質問をしても問題はないという気持ちになれた。

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