小さな1歩、JR東海「リニア情報発信拠点」の試み 相模原市内のマンション活用、地域密着で展開

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相模原市とJR東海の関係は良好に見えるが、それだけに気になるのが静岡県の状況だ。南アルプストンネルの工事が大井川流域の利水者に影響を与えかねないとして、県は工事着手をいまだに認めていない。

「さがみはらリニアブース」があるのはJR東海がリニア建設にあたって譲受したマンションの1階ロビーだ(記者撮影)

もっとも、水資源が重要な問題であることは相模原市も同じである。本村市長は、「当市には神奈川県の水の6割強を供給する水源地域があり、リニアがそこを通過する。簡易水道や井戸が枯れるのではないかと心配する声をいただいたこともある」としたうえで、「JR東海は水の問題については生活者に丁寧に説明して、補償していただいている。われわれもJR東海といっしょに生活者のみなさんの安心・安全に向けた取り組みを進めていく」と話す。

JR東海は「万が一、工事の施工に起因する損害等が発生した場合には、その損害に対して補償等の対応を適切に実施していく」としており、それを踏まえての発言と思われる。

静岡でも地域住民と密な交流を

相模原市がJR東海と良好な関係を築いている理由の1つに相模原市内にリニア新駅ができるというメリットがあることは間違いないが、今回地域の要望を受けてブースを設置したように、JR東海と地域の間で情報のキャッチボールが密に行われているという点も見逃せない。

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では、相模原市の例にならい、JR東海はどうすれば静岡県の信頼を得られるか。こんな質問を本村市長に投げかけてみたら、「地域に足繁く通って対話を繰り返し、向こうから投げられたボールをしっかり受け止めること」という答えが返ってきた。

リニア沿線において今回のようなブース設置は相模原が初めてのケースである。JR東海はほかの沿線市町、とくに大井川流域市町にも情報発信施設を設置して、そこで地域住民との交流を繰り返し行うべきだ。大きな説明会会場で壇上から住民の声を聞くよりも地域に溶け込んで対話を行うという点で、少しずつ支持を広げられるはずだ。単なる情報発信の場にとどめず、そこで地域貢献につながるような活動をしてみてもよいだろう。

今回はまず第一歩。地道な努力の積み重ねが、結局は地域の信頼を勝ち取るための近道となる。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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