原油価格堅調でも産油国が増産を渋る明確な理由 今春1バレル=100ドルを試す可能性が高まる
そもそも、石油の生産業者は、通常、先物市場であらかじめ必要量を売っておくことで、将来的な産油コストをヘッジしている。だが、その際に使う取引の指標は、NY原油先物価格のような「期近物」の価格指標ではない。大体5年から油田によってはそれ以上先に受け渡しがある「期先物」となる。
例えばWTI原油の5年先の指標限月である2027年12月限の価格は、現在60ドル程度の水準で推移している。コロナ収束や脱炭素の流れが影響しているとみられるが、これではコストの高い油田でしっかりと利益を確保することは難しいだろう。期近限月の価格それなりに上昇しても、こうした遠い将来の限月の価格が上昇してこなければ、石油業者は利益をヘッジすることができず、生産も伸び悩む可能性が高いというわけだ。
OPECプラスの生産方針も同様だ。足元でこそ彼らは段階的な増産方針を維持しているが、それは目先需要がある程度しっかりとした増加基調を維持、価格も上昇を続けるとの見通しを前提としたものだ。
もしこの先、価格が再び下落基調を強めるようなことがあれば、段階的な増産を停止するだけでなく、積極的に減産に転じることで相場を押し上げようということも十分にありうる。現時点での生産増加観測は、価格動向次第で簡単に崩れてしまう可能性もあるのだ。
投資不足からくる生産の長期的低迷も材料視されそう
さらに長期的な話をすれば、2014年後半から続く価格の低迷や、2020年前半の新型コロナの最初のパンデミックに伴う価格の急落、前出の脱石油を掲げる政治的な動きなどによって、ここ数年石油業界に対する投資が急速に鈍っていることも、生産の低迷をもたらす大きな要因となる。
石油業界に対する投資不足の影響が実際に生産に現れるようになるのは7年から10年後、あるいはもっと先とされている。だがアフリカの産油国など資金に余裕がないところではすでに影響が出始めている可能性が高い。
仮にこの先需要がしっかりと回復、価格がそれにつれて一段と上昇したとしても、数年前からの投資不足を取り戻すことは難しく、慢性的な生産の低迷を打開するには至らないことも十分にありうる。
今後数か月の間に、当初の予想通り生産がしっかり増加しなければ、こうした供給面の不安が一気に強まる中で、投機的な買いが加速する可能性が高い。アメリカの夏のドライブシーズンに向け、需要が増加してくる4月から5月にかけて、原油はやはり1バレル=100ドルの大台を試す展開となっていることがあっても、何ら不思議ではない。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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