「1本3000円」ガトーショコラ店がFC展開する戦略 価格3倍「業務用チョコレートの最高峰」を使用

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実は同店は、売り上げの7割を占めていたネット通販を2015年にやめている。注文受付や梱包、発送といった手間暇コストがかかる点や、商品が届かない、形が崩れていた等、配送事故への対応が物理的・精神的負担になったことが理由だそうだ。

「例えば物流が東日本震災の影響を受けていた時期、『商品が遅れた』とクレームを受けて料金をタダにしたこともあります」(氏家氏)

ケンズカフェ東京の厨房。オペレーションを極限まで単純化し、高い生産効率を実現している。小麦粉を使わない同店のガトーショコラは12分で焼き上がるため、回転がよいことも生産効率の高さにつながっている(撮影:大澤誠)

「心が通わない商売はやめよう」と、ネット通販事業から撤退。2〜3割の売り上げダウンを予想していたが、案に相違してかえって評判は高まり、売り上げ利益率ともにアップしたそうだ。百貨店の小売り部門など、固定の受注先も増えた。

そして、リアルにこだわる美学ゆえとも言えるかもしれない。例えば氏家氏は、新宿御苑の総本店外壁デザインを高頻度で変えている。市場の好みに合わせてレシピを変えている、ガトーショコラの味に合わせているという。

また、商品のパッケージも、手触りや重みでリアルに感じられる高級感を大切にしている。折りたためる折り箱はコストが安く場所もとらないが、最上級のガトーショコラの「器」としてふさわしくないと、ジュエリーなどに使われる貼り箱を採用しているのだそうだ。

店舗を増やすとパワーが上がる

さらに、やはり、いつでもどこでも買えることは価値の低下になる。そこで氏がとった手段が、FC展開だったのだ。フランチャイズやファーストリテールなどを事業とするMIGホールディングスと手を組み、フランチャイズ店を募集。FC店舗ではOEM工場で製作した商品を各店舗で販売することになる。

ただ、冒頭にも紹介したように、FC展開は氏家氏の次のチャレンジであり、「最強の1店舗」を究めるための布石である。

ケンズカフェ東京オーナーで、ドメーヌ代表取締役の氏家健治氏。バブル時代に青年期を過ごし、高品質なものに多く触れた経験が「特撰ガトーショコラ」を生み出す土壌ともなった(撮影:大澤誠)

「店舗を増やすとパワーが上がります。もっと質の高い素材を使って、もっとおいしいガトーショコラをつくれるからです。そして、質のよい素材が出回るようになれば業界全体のレベルも上がります。最強の1店舗としてのレベルもアップするのです」と氏家氏。

これを説明するためには、ガトーショコラ誕生の歴史から紐解く必要がある。

学生時代から食に興味をもち、バブル全盛期に舌を育てた氏家氏の原点となっているのは、「素材にお金をかけるほどおいしい」という経験則だ。

レストラン時代、料理に合わせるスイーツとして提供していたときから、業界でも「業務用チョコレートの最高峰」と言われるフランス、ヴァローナ社のクーベルチュールチョコレートを使用。仕入れ価格は一般的なチョコレートの3倍ほどだそうで、「ガトーショコラにこんないいチョコレートを使おうという発想が、当時は誰にもなかった」という。

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