このようにして、勤労者世帯や高齢者世帯の生活が困窮する。
それに対して、名目負債を保有する主体は利益を得る。その典型が、国である。
国の債務である国債の実質債務は、インフレによって著しく減少する。
それだけではない。すでに述べたように、物価上昇率が低いと年金のマクロ経済スライドを実行できないが、インフレ率が一定率以上に高まれば実行でき、年金の実質額を減少させることができる。
公的年金の給付額は、2019年度で55.4兆円だ。20年間では1000兆円を超える。これは、普通国債残高(2021年度末で990兆円)を超える額だ。
年金財政の維持のためにも、物価上昇率が高いことが望ましいのである。
したがって、国はインフレを志向している。少なくとも、自ら望んでインフレを抑制するインセンティブは持っていない。「インフレ税は最も過酷な税だ」と言われるが、そのとおりなのである。
これに対抗して通貨価値を守るために設けられているのが中央銀行だ。
実質実効レートを金融緩和直前の水準に戻すだけで
いまの輸入物価高騰の原因となっている原油価格の上昇や国際的サプライチェーンの混乱は、日本にはいかんともしがたい。
しかし、金融政策で為替レートに影響を与えることは可能であり、実行すれば、大きな効果を発揮できる。
2012年頃にも原油価格が上昇して、1バレル100ドル程度になった。しかし、この時には円高であったために、国内物価への影響は限定的だった。
いまでも、円高になれば、輸入物価の上昇を食い止められ、国内の物価上昇を抑えることができる。
2010年を基準とした円の実質実効為替レート指数を見ると、金融緩和が始まる直前の2013年春に100程度であったものが、2021年11月には、67.79にまで低下している。
円の購買力が2012年と比べて3割以上低下しているのだ。
これを金融緩和前の水準に戻すだけでも、円ベースの輸入価格は3割以上下落することになる。そして、資源価格の高騰を帳消しにすることができる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら