投機的円安にはドル売り介入が効果 榊原英資氏に聞く為替展望
[東京 10日 ロイター] - 元財務官の榊原英資・青山学院大学教授は10日、日本経済にとって円安のメリットが薄れてきたとの見方を述べた。ロイターのインタビューで語った。
足元ではドル/円相場が106円─111円といったレンジに入った可能性があるとの見方を示したほか、急激に進行する投機的な円安に対してはドル売り介入が効果を発揮すると述べた。日銀による追加緩和があるとすれば、来年に見込まれる消費再増税のタイミングではないかとの見方も示した。
<ドルはレンジ相場入り>
榊原氏は、足元の円安は強い米国経済のファンダメンタルズを反映したドル高だとし「市場は米経済の強さを織り込んだ」と見ている。米経済が3%成長などさらに強くなる様子はないとし、「ドル高/円安の局面は終わった。115円や120円と、どんどん円安になる局面ではない」と指摘した。
米国の経済成長ペースは日本を上回っている上、金融政策の方向性の違いもあるため、極端な円高方向への逆回転はないとの認識を示した。一方、円安要因となり得る日銀の追加緩和についてもすでに織り込みが進んでおり、ドルの上値も限られるとみている。米国のQEで円高が進んだが、日銀のQEで元のレベルに戻ってきたと指摘し「半年程度はレンジ相場が続くのではないか」と語った。
<投機的な円安にはドル売り介入が効く>
榊原氏は財務官当時、円高阻止の円売り介入が注目されたが、足元の円安水準については「日本経済にとって円安メリットは薄れてきており、決してプラスではない」と指摘した。かつては輸出促進というプラス効果があったが、今や日本企業のかなりの部分が海外生産している上、輸入面でのネガティブ効果に変化はないとし「恐らく強い円は日本の国益だという局面に入ってきている」と述べた。
ファンダメンタルズからかい離した投機的な円安が進行する可能性もあり得るが、榊原氏は「マーケットの思惑だけで円安になる場合は、短期間しか続かない。放っておいても元に戻るし、ファンダメンタルズと逆ならドル売り介入すれば効く」と述べた。
在任中に榊原氏は、当時の黒田東彦国際局長とともに円安阻止のドル売り介入を実施した実績もある。円高から反転して円安に弾みがついたタイミングでドル売り介入したとの経緯を説明し、「115円、120円と、非常に速いスピードでいくようになったら逆介入は必要だろう」と述べた。
もっとも、榊原氏の在任時に比べて為替市場は巨大化しており「介入してもなかなか効かない状況になってきている」面がある。加えて「ドル売り介入には外貨準備の天井があるため、そんなに簡単ではない」とも指摘した。直近の高値110円は過度な水準ではなく、さらに上振れていく気配もないとして「今はそういう(介入する)局面ではない」との認識も語った。
<追加緩和は消費再増税とセットに>
日銀による追加緩和があるとすれば、消費税の再増税とセットで実施されることを市場は織り込んできていると指摘した。「再増税が来年10月なら、その前後で追加緩和をすることは十分あり得る」との見方だ。
足元の日本経済について、成長率1.5%程度は順調といえると指摘し「これ以上、金融政策で刺激する必要はない。さらなる金融緩和を消費税の再増税前にやるべきではない」と述べた。その上で「おそらく来年の末ごろにもなれば、日本もそろそろ出口の話になってくると思う」と述べ、出口の議論が始まれば、円安も自律的に抑制されるとの見方を示した。
消費税の再増税については、財政健全化の面から不可避との立場で、先送りすべきでないと述べた。これまで国債市場が崩れていないのは、家計の金融資産が非常に多い上、財政再建が着々と進んでいるとの認識があるためだとし「再増税しないリスクは非常に大きい」と指摘した。2─3年の先送りを指摘する声もあるが「2─3年たったら必ずやるということではないだろう。ロードマップは示しにくい」との認識を示した。
「相変わらず政府は、GDPの8%ぐらいの赤字を出している。家計の貯蓄率は2─3%になってる。だんだんギャップが縮まっている」との警戒感を示したうえで「このままの状況が続けば、5年先、10年先、どこかで国債暴落ということはあり得る。それは絶対に回避しないといけない」と語った。
(平田紀之、梶本哲史)
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