撤退続く中国「学習塾」農業やアパレル転身の驚愕 政府の全面規制で8割が閉鎖、教育業界の現状

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背景には、少子化と格差拡大という中国が抱える2つの社会問題がある。最近、日本で就職情報会社マイナビが、タイトルに「大東亜以下」と記したメールを誤送信して「学歴フィルターでは」と炎上したが、中国の学歴社会はより露骨で熾烈だ。

ファーウェイ、テンセントといったメガIT企業が著名大学の理系学部を卒業した新入社員に年棒1000万円を出すこともあるのに対し、地方都市の中堅企業の大卒初任給は4~6万円程度。社会人のスタート時点で待遇や給与に大きな差がついてしまうこともあって、親は子どもの教育に金を注ぎ込むため、塾も親の焦りを煽ってきた。

勉強量と教育費でがんじがらめ

例えば楊さん一家が経営している塾は、小学校入学前の子どもたちに読み書きや算数、英語を教える「学前班」を主力にしている。入学前の1年間だけ通う全日制の「学前班」は、進度の速い小学校の授業でスタートダッシュを切りたい親の人気を集めており、楊さんの塾も小学校教師が自分の子どもを通わせたり、人に勧めたりして、口コミで年々生徒が増えたという。

「小学校の先生にとっても、入学前に簡単な読み書きや計算ができ、集団授業に慣れている子どもの方が助かる」と楊さん。

河北省の中学で英語教師をしている女性(30)も、「私たちが中学生だった時に比べ、覚えないといけないことが倍に増えている。学校のカリキュラムが質・量ともに塾なしには成り立たない状態だ」と打ち明けた。

勉強と教育費にがんじがらめになる社会のあり方には中国人も辟易としており、これが若者が結婚・出産に後ろ向きな大きな理由ともされる。

少子高齢化に直面し一人っ子政策を2015年に廃止し、2021年8月には格差是正を目指す「共同富裕」のスローガンも打ち出した習近平政権が、教育にメスを入れること自体は、むしろ遅すぎるくらいだった。

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