柳川東大教授「日本人が抱えるモヤモヤ感の正体」 「先が見えないから面白い事を」ライフシフト論

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大企業を辞めて、セカンドキャリアとして中小企業に転職する際、「私は営業マンです。それ以外はできません」と言っていたのでは、なかなか思うような就職先は見つからないでしょう。中小企業には、営業の専門職を雇う体力はそうないからです。

ですが、営業マンとして経験を積んでいたほかに、例えば管理職として営業部の経理についても知識がある、となると印象は変わってくると思います。経理について追加で学び知識を補足すれば、「経理もできる営業マン」として就職先の幅は圧倒的に広がります。

もちろん、パーフェクトでなくていいのです。自分の今までのキャリアのなかで、主業務と補完関係がある、または密接に結びつくスキルを少しでも学んでおくと、可能性がぐんと広がりうる、ということを申し上げたいのです。

新しい可能性を拓くための社会的投資を

個人だけでなく、国や企業も変わっていかなくてはなりません。副業などの制度もだいぶ推進されつつありますが、まだ手探りの部分があります。

例えば社会保障の負担割合や労務管理などです。週に5日勤務する社員と3日勤務で2日は副業している社員について、どのように評価すればいいのか。法制度のみならず、企業の体制も見直しが必要でしょう。

その意味で、日本の企業は遅れているという見方もありますが、必ずしもそうではありません。ある環境下、たとえば高度経済成長期のように全員が一丸となって目標に向かい、大量生産をする。このように目指すべきゴールが決まっていた時代は、日本の長期雇用のような仕組みがフィットしていました。

しかし今は違います。皆がいろいろな知恵を出し合って、思いもかけない方向を模索しながら、そこで宝を見つけるというスタイルに変わってきた。新しい挑戦に対してフィットする制度が求められる反面、今までの雇用慣行や人事評価はなじまなくなった、ということだと思います。

だからといって、いきなり今までのルールを変えられたら困る人も出る、と言い続けたら、いつまで経っても変えられません。私は入試改革のように、数年後にこう変えるというアナウンスして進めるのが現実的だろうと思っています。

急速に進む技術変革と長寿化の時代、私たち1人ひとりがどう生きるかを、『ライフ・シフト』は問うています。日本人は、これをどう受け止めるか。これは世界的にも、多くの人の関心を呼ぶイシューなのだとあらためて感じています。

(構成 笹幸恵)

柳川 範之 東京大学経済学部教授

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やながわ のりゆき / Noriyuki Yanagawa

1963年生まれ。東京大学経済学部教授。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。現在は契約理論や金融関連の研究を行うかたわら、自身の体験をもとに、おもに若い人たちに向けて学問の面白さを伝えている。主な著書に『法と企業行動の経済分析』(第50回日経・経済図書文化賞受賞、日本経済新聞社)、『契約と組織の経済学』(東洋経済新報社)など。

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