私が楽天による買収を受け入れたワケ スライステクノロジーズのブラディCEOに聞く

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楽天とスライスの議論は、技術者レベル、経営レベルなどで行われていた。スライスが成長するにつれて、より深く新しい関係が生まれ、楽天による買収に至ったという。ブラディ氏は、企業かは大きなビジョンを持つべきだが、三木谷氏のビジョンはさらに大きなものであり、関わる企業のビジョンも拡張してくれると評価している。

楽天の傘下となったスライスは、Eコマースとデータサイエンスの可能性の追求をさらに加速させるとしている。たとえば、Eコマースでは、世界中の商品を購入することができる。しかし服のサイズは、サンフランシスコ、イスタンブール、東京、ロンドンでは全く異なる、という問題がある。「グローバル化したEコマース環境に対して、共通言語や共通の単位などを作りだしていくことが、データサイエンスによる消費者の発展の次のステップになるのではないか、と考えています」。

新しい可能性と、日本の起業家の挑戦

日本のシリコンバレーに対する熱い視線について、ブラディ氏は違和感を持っているようだ。「シリコンバレーに来ればすごいことが起きる、という期待にも理解ができます。確かにカルチャーとして、ユニークさやチャレンジを尊重する、という恩恵を受けることもできるでしょう。しかし、シリコンバレーと日本では、大きな違いはなく、日本にいることによる不利益もないのです」。

ブラディ氏は起業を重ねた後、スタンフォード大学のビジネススクールへ通い、現在は教鞭を執る立場にもなった。同氏の授業では、起業家による生々しい問題解決の方法や努力が語られ、非常に濃い議論が交わされているという。何人もの起業家が巣立っていく様子と、自身のビジネスが同時並行している環境は、興奮するものに違いない。

最後に、日本の起業家、あるいは起業を目指している人々にこんなメッセージを送ってくれた。「多くの可能性はあります。どこにいても、ユニークな問題解決の方法と展望を持つ必要があります。快適な場所を離れ、新しい異なる場所へ進み、相当の努力を積み、これをともに歩む同僚と、市場の中で新たなモノを作り出すという強い欲求が、起業家には必要なのです」。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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