私が楽天による買収を受け入れたワケ スライステクノロジーズのブラディCEOに聞く

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もう1つ例を挙げると、その人が購入したものについての追跡監視をしてくれる機能だ。あるカバンを300ドルで購入したとする。しかし翌週Eコマースサイトのセールで250ドルに値下げされていた。こうした価格変動があった際、スライスの画面から知ることができ、Eコマースサイトに返金やギフトチケットの請求を行うことができる。

ベビーカーなど安全に関わる商品にリコールがあった場合も、スライスが知らせてくれることによって、メーカーによるサービスを受ける事ができるという。ブラディ氏は「ユーザー登録はがきは添付されているが、まめに登録している人の方が珍しい」と指摘する。

Eコマースのメールを解析するだけで、これほどまでの情報を消費者に与えることができるとは、驚かされる。ブラディ氏は「データサイエンスをEコマースに活用することで、消費者の権利や自由さを高めることができれば」とビジョンを語る。まだまだ、できることはたくさんあるのだ。

シリコンバレーのグローバル感覚

9月9日に楽天が都内で開催した、イーベイツ買収の記者会見にて。左端がブラディ氏(撮影:尾形文繁)

スライスは楽天との協業によって、新たなグローバル展開の糸口につながることを期待しているという。

日本企業の傘下に入ることがグローバル化を後押しするとのブラディ氏の評価は、日本人の我々からするとやや新鮮に感じるかもしれない。

その背景には、シリコンバレーのマインドセットが関係しているという。「シリコンバレーに拠点を置いている企業として、グローバルを見据える必要は当然あります。しかし昨今のトレンドとしては、世界最大を誇り、マーケットサイズとして十分な米国市場での成功や、米国の企業に買収されることを目指す傾向にあります。合理的な判断にも見えますが、スタートアップ企業が世界展開を単独で行うことは非常に難しいのです。資金面や参入していく米国外の市場でのビジネス上、文化上の障壁を乗り越えていかなければなりません。特に、洗練されたテクノロジーを武器としている企業は、その難しさにさらに大きな影響を受けるのです」。

この話からは、米シリコンバレーのスタートアップのトレンドの新たな側面を知ることができる。そして、こうしたスタートアップの難しさを解決するために、小さな企業が持っていないアセットを有するグローバル企業との協業が、有効な手段だと指摘する。

「スライスでは、中国やアジア、欧州の市場での可能性を非常に魅力的だと感じています。高度なテクノロジーは市場参入の難しさの影響を受けますが、同時に、テクノロジーはマーケットの民主化を行い、参入そのものがしやすくなっていくとも考えています」

グローバル展開を見据えるスライスには、グローバルなEコマース企業が必要だった。そこで出会ったのが楽天会長兼社長の三木谷浩史氏である。

楽天がシリコンバレーで行っている、地元のスタートアップ企業とのディスカッションに参加したことをきっかけに、三木谷氏と出会う。そのときの様子をこう振り返る。

「三木谷氏とのディスカッションは、毎回非常に興味深いものでした。そもそも、シリコンバレーで成功している起業家の誰とも異なる経験とビジョンを持っていたからです。日本企業との対話というよりは、グローバルな視点を持った経営者との出会いと対話によって、スライスのグローバル展開にまつわるビジョンが非常に大きく広がった、と考えています」

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