DXを進めると組織に「新しい発想」が生まれる理由 実験を認めない企業のデジタル化は掛け声倒れ

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その迫力に飲まれた私は「はい、わかりました」と情けない返事を思わずしてしまった。倉重氏の話は続いた。「プリンター(印刷物)は情報の共有化を阻害するが、壁プリンター(プロジェクター)は情報の共有化を促進する」と。そうなればもう反論とかいうレベルではない。

結局、まさに究極のペーパーレスが完了した。するとどうだろうか。結論からいえば5年間で生産性が5倍に伸びた。売り上げは10倍、人員数は2倍になった。コンサルティング会社は設備をもたない。つまりこの結果は「人材の能力がついた」ということである。言い換えれば「組織にシナジーが生まれた」ということだろう。

勝者と敗者をわけるもの「チャレンジするかどうか」

くわしい話は割愛させていただくが、人が必要とする情報は、紙として引き出しにしまってあったり、記憶として頭の中に眠っていたりしていた。誰かから求められた場合、紙をそのまま渡すと、誤解や勘違いを生んでしまったり、その一部に機密情報が入っていたりする。だから、相手に合わせてサニタイズしたり、リファインさせたりするわけだが、それが面倒このうえない。だから、誰かに聞かれてもそれは「もってないということにする」という風潮がどうしてもあった。

ところがどうだろう。データが電子化され「簡単に情報を加工して渡せる」ようになった瞬間に、すさまじい勢いで情報交換が発生し始めた。情報交換が始まると、「情報をもらえない人間」と「情報が集まる人間」が出てきて、両者の業績の差がみるみる広がっていく。「情報が集まる人間は、自分でも情報を提供する人間」だと感覚的にわかってくるにつれ、ナレッジポイント(情報を出す人間)に人気が集まった。次第に組織のシナジーが生まれてきた、というよりも雰囲気、もっといえば文化までもが変わってきた。

個人的には、それ以来、やれ目的だの手段だの、うるさいことはいわないことにした。特にDXについては、目的か手段かを議論し始めると進めないと思う。デジタル化を進めれば、そこにデータが生まれ、データが情報に変わり、その延長線上で今までと違う発想が生まれやすくなってくる。

逆にいえば、やってみなければ、どのような成果がどのように出てくるかを明確に把握できない。いわば実験である。これを躊躇するのかチャレンジするのか、そこで勝者と敗者が生まれてくるような気がする。すでに成功しているGAFAの例で正当化しても説得力がないが、彼らのもっている不思議な魅力や文化はこんなところにある気がする。

金巻 龍一 GX代表取締役、元日本IBM常務執行役員

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かねまき りゅういち / Ryuichi Kanemaki

アクセンチュア、PwCコンサルティング、IBM戦略コンサルティンググループなどにおいて、20年超にわたり戦略コンサルティング業務に従事。専門は、新規事業開発、B2B営業改革、グローバル戦略、ポストマージャーインテグレーション(PMI)。2002年のIBMによるPwCコンサルティング買収の際、PwCコンサルティング側統合リーダーを務め、当事者として経営統合を体験。その後、10年間にわたり「戦略コンサルティンググループ」を統括。2013年IBM卒業後、内田洋行の特別顧問就任。2014年GCA参画。「戦略・PMIサービス」事業の立ち上げに従事。2018年GCA退職後、新規事業開発の専門会社としてGXを設立し、現職。

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