ビートルズ「解散の原因」は巨額な税金だった説 税金対策アップル社設立からたった2年で解散

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このアップル社は、ビートルズが無謀なビジネスに乗り出して大失敗した会社として、世間に認識されています。

ビートルズはこのアップル社で、音楽、映像、美術などのさまざまなアーティストを発掘し、世界の芸術の先端を行くつもりでした。しかし、アップル社はあっという間に赤字が累積し、破綻に追い込まれました。

それがビートルズの解散の大きな要因ともされています。ビートルズ・ファンにとっては、いまいましい会社でもあります。

ビートルズとしては、自分たちの莫大な収入の大半を税金に取られるのはばかばかしい、そこで会社をつくろうとしたわけです。しかしただ会社をつくるだけでは能がないので、エッジの効いた先進的なエンターテインメント企業をつくろうとしたのです。

なぜ会社をつくれば節税になるのか、というと、ざっくりいえば次のようなことです。

ビートルズの収入は、アップル社が受け皿になります。アップル社は、ビートルズの収入などを元手にさまざまな事業を行います。そして、利益が出た場合には、配当がメンバーに支払われるのです。個人の収入としてお金を受け取るよりも、会社から配当を受け取ったほうが、税金は安くなるのです。

またメンバー個人が直接ビートルズの収入を受け取れば、その収入にはそのまま税金が課せられてしまいます。だから、メンバーが何か事業を行おうとすれば、税金を払った後の残額を資金にするしかありません。

しかし、アップル社をつくれば、ビートルズの収入を課税される前に、ほかの事業に投資することができます。ビートルズから見れば、「自分たちのお金を自由に使える範囲」が広がるのです。

数字がわかる人間がだれもいなかった

しかしこのアップル社には、企業として大事な部分が欠如していました。“数字がわかる人間”がだれもいなかったのです。

アップル社には、企業経営や経理の専門家はほとんどいませんでした。そんな中で、“資金だけは巨額な会社”をつくったわけです。当然のごとく、放漫な経営になってしまいました。

アップル社に集まった人たちのほとんどは、ビートルズの金を当てにしていたのです。会社名義で購入された高級車2台が行方不明になったりなど、会社としての形はないも同然でした。アップル社は、1年もたたないうちに経営難に陥ってしまいました。

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「税金対策のために経費を使おう」ということで始めたアップル社でしたが、ビートルズの想像をはるかに超えて経費が膨らんでしまったのです。

ついこの間、300万ポンドもの税金を払わなければならなかったビートルズが、破産寸前にまで追い込まれたのです。アップル社が、いかに急速に金を使ったか、ということです。

また当初、主にアップル社の経営をしていたのはポールでしたが、経営危機になってからはジョンが中心になりました。そこでジョンとポールに意見の対立が生じ、ビートルズに亀裂が生じるようになってしまったのです。

そして、ビートルズはアップル社設立からたった2年で解散してしまいます。ビートルズ解散の理由は1つではなくさまざまな要因が絡み合ったものと思われますが、このアップル社のビジネス上の大失敗が大きな要素となっていることは間違いないでしょう。

ビートルズのメンバーは、ビートルズ解散時の1970年には資産の多くを失っていたとみられています。ジョンは、当時ニューヨークで暮らしていましたが、知人からお金を借りて生活していたそうです。

このビートルズの節税対策の失敗は、ほかのミュージシャンにも大きな影響を与えました。

1960年代以降、イギリスのミュージシャンが世界的に成功を収めると、イギリス国外に移住するケースが多くなりました。たとえばローリング・ストーンズは1970年代の一時期、フランスに移住していました。それもイギリスの高い税金を嫌ってのことなのです。

よくも悪くも、ビートルズは後世のミュージシャンの手本になったのです。

大村 大次郎 元国税調査官

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おおむら おおじろう / Ojiro Omura

国税局に10年間、主に法人税担当調査官として勤務。退職後、ビジネス関連を中心としたフリーライターとなる。単行本執筆、雑誌寄稿、ラジオ出演、『マルサ!!』(フジテレビ)や『ナサケの女』(テレビ朝日)の監修等で活躍している。ベストセラーとなった『あらゆる領収書は経費で落とせる』をはじめ、税金・会計関連の著書多数。一方、学生のころよりお金や経済の歴史を研究し、別のペンネームでこれまでに30冊を超える著作を発表している。『お金の流れでわかる世界の歴史』は「大村大次郎」の名前で刊行する初めての歴史関連書である。近著に『税務署対策 最強の教科書』『「土地と財産」で読み解く日本史』。

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