台湾の人気ヘビメタ国会議員がリコールの危機 繰り返される議員へのリコールに国民党急進派の存在

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次に、リコールを要求しているグループは、林氏の地元へのサービス不足をキャンペーンの中心に据えているが、これについては、

「立法委員として5年間、私は地元で長年放置されてきた多くの問題を解決してきました。地方サービスや建設など累計で6198件に上ります。その中には放棄地の再活用や環境美化、交通安全、住みやすさの向上、遺跡の保存など、多くの実績を上げてきました。とくにコロナ禍では、万華地区が台湾で最初に危機に直面しました。

多くの医療機関で患者を受け入れられず、重症患者が治療を受けられない状況に陥りました。患者家族が途方に暮れる中で、私やチームは窓口となって関係各所との連絡や調整にいそしみました。社会的弱者の家庭に対し、1000以上の救援物資や弁当の準備など、全力でサポートしてきました。

また、患者が急増する中正万華地区の医療従事者の安全のため、ウイルスの侵入を95%防ぐとされる医療用N95マスクや防護グラス、それに医療用防護服など、累計2万セットを届けました。結果としてこれは現地の医療サービス維持にもつながっています。リコール要求側の地元へのサービス不足という指摘は当たらないと思います」と言う。

「投票への積極参加を呼びかける」

さらに先の陳氏のリコール投票では、一番の問題は何だったと聞くと、

「台湾はリコール法を修正したものの、投票における投票率と選挙戦略について、まだまだ手探りの状況だと感じています。要求された側が、人々に積極的な投票を呼びかけるべきなのか、あるいは消極的に対処するべきなのか、いまだはっきりしていない状況です。そんな迷いの中で選挙戦を戦い、結果として現れたのが、先の陳氏のリコール成立でした。しかし、過去数回のリコール投票と、今回の住民投票を経て、私は積極的に投票を呼びかける戦略で行こうと思っています」。

最後にどのような結果でも真摯に受け止めると発言しているが、仮にリコールが成立した場合、政治活動は続けるのか、については「今は目の前のリコール要求に正面から向き合い、成立しないよう力を注ぎたい」と述べ、今はあくまでも目の前の戦いに全力を傾けるとのことだった。

一方で、筆者は林氏のリコールを要求しているソーシャルメディア(SNS)のグループに対しても質問し、取材を試みた。しかし、残念ながら期日までに回答は得られなかった。

林氏は民主主義と台湾独立を支持する立場から、毅然と中国と向き合う姿勢を明確にしている。台湾の国会から彼がいなくなることで一番喜ぶのは誰か。中国にほかならないのは誰の目から見ても明らかである。今回のリコール投票は、中台対立の一側面もあることを、併せて指摘しておきたい。

高橋 正成 ジャーナリスト

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たかはし まさしげ

特に台湾を中心に、時事問題をはじめ、文化、社会など複合的な視座から問題を考えるのを得意とする。現役の翻訳通訳者(中国語)。

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