「軽自動車のEV化」がいまいちピンとこない理由 新型アルトに乗って案じた「軽EVの行方」
開発関係者は「先代(8代目)は(商品転換としての市場に対する)インパクトを狙った」と開発の狙いを振り返った。また同時に、「2010年代前半は“燃費第一”という要望が市場から多かったため、タイヤやサスのセッティングにより乗り心地が固くなったり、路面からの突き上げが多くなったりしていた」と先代モデルの弱点に触れた。
9代目となった新型では「気軽に乗れる、すごく使える、安心・安全な軽セダン」が商品コンセプトだ。
そのうちもっともわかりやすいのは、室内に入った瞬間にわかる“車内の広さ”だ。全高:50mm、室内高:45mm、フロントドア開口高:20mm、車内幅:25mmをそれぞれ拡大しているが、その広さはこうした数値のイメージよりも、実感として「かなり広くなった、まったく別のクルマになった」と思うほどだった。
走行面の印象もよかった。走り出してまず感じたのは、ゆったりとした気分で乗れること。先代で気になっていた足元(フロア)の振動が減少し、ハンドル操作に対するクルマ全体の動きの先読みがしやすくなった。
さらに、700kg前後と極めて軽い車重のクルマをマイルドハイブリッド化したことで、“加速の押し出し感の強さ”も感じた。アイドリングストップからエンジンを再始動するときの振動や音も小さい。
室内各部のできばえも、100万円前半のクルマとしては十分なレベルだ。エンジンルーム内など、ユーザーがあまり目にしない部分のフィニッシュもきれいで、「丁寧に作りこんだクルマ」という印象を持った。
また、予防安全装置もフルスペックで標準装備しており、価格や税金を考えると「乗用コンパクトカーをかなり食ってしまうかもしれない」とも感じた。新型アルトは、まさにスズキの真骨頂“良品廉価”である。
それから今回、興味深かった話が1つあった。
「背が低いこと」の安心感
商品企画の段階で、スズキの開発者はアルトユーザーの声を聞き取り調査した際、「なぜ、スペーシアなど背が高く室内空間が大きい軽自動車ではなく、アルトを選ぶのか」という質問事項を設けたという。
それに対して多くのユーザーが、着座位置が高いことでの潜在的な不安感があり、「アルトのような軽セダンのほうがしっくりくる」と答えたというのだ。
そういえば2021年9月に発売され、同10月には単月台数でN-BOXや「ルークス」を抑えてワゴンRを久しぶりにトップに導いた「ワゴンRスマイル」は、「スペーシア」のような「スーパーハイト系ではない軽自動車でスライドドアがほしい」という市場の声を参考に商品企画されている。
“背が高いこと”が売れる条件だった軽自動車市場の様子に最近、変化が見られるということだ。
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