韓国はなぜ、今、朝鮮戦争「終戦宣言」を急ぐのか 理想を掲げた政権争いが生む国際社会との齟齬

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そもそも「終戦宣言」とは何か、その具体的な内容は明らかになっていない。通常、戦争終結は当事国間で領土画定や賠償問題への対応などを定めた「平和協定」などの条約を結ぶことで実現する。文大統領が主張している終戦宣言は条約のような法律的なものではないようで、韓国政府は「政治的な宣言にすぎず、法的拘束力はない」と説明している。

そんなふわっとした文書がなぜ必要なのか。韓国政府には宣言合意をきっかけに南北間や米朝間の対話を再開し、関係改善の糸口にしようという狙いがあるようだ。文大統領は「終戦宣言は朝鮮半島の平和の時計が再び回り出す動力になるだろう。政府は対話と協力のために最後まで最善を尽くし朝鮮半島平和時代への大転換をリードする」などと強調する。

ところが関係国の間で、この話に積極的に乗っているのは中国だけだ。アメリカは「順番や時期、条件などについて多少違う観点を持っている」(サリバン大統領補佐官)とし、直接的な批判を避けつつ距離を置いている。当事者ではないが日本政府もアメリカ政府に対し、同調しないよう強く働きかけている。

肝心の北朝鮮は、米韓軍事演習などの敵視政策の撤回や、北朝鮮に対する国連安保理の経済制裁の解除などを終戦宣言協議の前提として要求し、韓国との交渉のテーブルに座ることさえ応じていない。

進歩派と保守派、それぞれの対北政策

文大統領は実現可能性の低い終戦宣言になぜ、ここまでこだわるのか。自らの政権の遺産(レガシー)を残したいためではないかという解説がもっぱらではある。しかし、青瓦台の熱の入れようを見るとそんな単純な話ではなく、韓国政治の歴史が深くかかわっているように見える。

よく知られているように韓国政治は保守派と進歩派に分かれて激しく対立している。2つの政治勢力の誕生と対立は、東西冷戦による南北分断と韓国における軍事政権、民主化運動という歴史が引き起こした。そして歴史をさかのぼれば日本の植民地支配もその一因といえる。

こうした歴史の結果、朝鮮民族は社会主義を掲げる北朝鮮と反共の韓国に分かれて独立し、さらに韓国は親米的な保守派と軍事政権に抵抗し民主化を求めた進歩派に割れた。軍事政権下では保守派が圧倒的だったが、1987年の民主化後は進歩派が次第に力を増し、勢力が拮抗して政権交代が繰り返されている。

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