米中のデータ覇権争いの焦点に躍り出たドローン

米国の国家安全保障を脅かす得る脅威の象徴に

米インディアナ州の大学生、カーソン・ミラーさんは、ドローンの最新モデルをレビューするユーチューバーだ。チャンネル登録者8万人を抱えるミラーさんにとって、こうした製品が中国のスパイ活動に使われるとは思えない。

ミラーさんは広東省深圳に本社を置くSZ・DJIテクノロジーのドローンを2016年に500ドルで初めて購入。現行為替レートで5万6800円程度だ。21歳になった今はDJIのドローン6台を所有している。「もしあした、DJIが全面的に禁止されたらかなり痛い」と話す。

DJIのドローン(2017年、ニューヨークのイベントで) 

世界最大の小型無人機ドローンメーカーとなったDJIを巡る懸念は、橋やダムなどの重要なインフラ設備から心拍数や顔認識といった個人情報に至るあらゆる取り扱いの難しいデータが同社の製品を通じ中国の情報機関に送信されている可能性があるというものだ。だがミラーさんは 「スマートフォンには24時間年中無休でユーザーを追跡するアプリがある」と、消費者のデータプライバシーにはより大きな脅威があると指摘する。

バイデン政権は16日、DJIに対する米国からの投資を禁止した。1年前にはトランプ政権が同社による米国産部品購入の阻止に動いている。民主、共和両党の議員は連邦機関によるDJIのドローン購入を禁じる法案を検討しており、米連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員は10月、ドローンによって収集された「膨大な量の機密データ」を理由にFCCはDJI製品の承認禁止を検討すべきだと述べた。

DJIの上海旗艦店(12月16日) 

DJIは多くの点で米国の国家安全保障を脅かし得る象徴的な企業となった。同社のドローンを通じ数百万単位の米国人に関する情報を中国政府が取得するかもしれないという恐れからだ。

オバマ政権時に米国防総省に勤務した経歴のあるエール大学ロースクールのオーナ・ハサウェイ教授は「情報の新たな一片自体はそれほど重要ではない」が、「これらを組み合わせるとほとんどの米国人の個人的な生活について外国の敵に前例のない洞察を与える可能性がある」と米誌フォーリン・アフェアーズで論じた。

DJIのドローン(2014年、ネバダ州でのシンポジウムで) 

 

DJIは米ドローン市場の50%余りを握っているとFCCは10月に発表。調査会社ドローンアナリストは、DJIが消費者を対象とした350-2000ドルの無人航空機(UAV)の約95%を販売していると推計している。

ブレンダン・カー氏 

DJIはデータポリシーとマーケティング戦略に関するブルームバーグ・ニュースからの問い合わせに答えなかった。同社はバイデン政権が先週打ち出した措置にもコメントせず、広報担当のアダム・リスバーグ氏は20年の発表資料を参照するように求めた。

米商務省が米サプライヤーからの購入が禁じられた企業のリストにDJIを追加した際に出されたこの資料で、DJIは「リストに掲載されるようなことは何もしていない」と主張。「われわれは常に人々の命を救い、社会に恩恵をもたらす製品の構築に力を注いできた。 DJIとその従業員は業界で最も革新的なテクノロジーを顧客に提供することに引き続き取り組む」と表明した。

  

米政府の制裁に対するDJIの反撃はかなりシンプルだ。米国のサプライヤーに頼らず、市場に出回っているどの製品よりも優れた手頃な価格の製品を開発し、次世代ユーザーを取り込むというものだ。

同社は昨年、新たに教育部門をスタート。わずか240ドルの小型ドローンや、学校の教師が若い学生に基本的なコーディングを指導する際に役立つソフトウエアを提供している。今年10月、同社はアカデミー賞受賞者3人を含む映画撮影スタッフに新しい安定化技術やその他さまざまな高度な機能を備えたドローンのプロモーション活動を依頼。空中に最長46分間とどまることができるデバイスや「1時間で40エーカー(約16ヘクタール)をカバーできる」農業用の散布装置もある。

ロサンゼルス市消防局向けのデモンストレーション(2019年) 

DJIはライバル企業をも感心させている。ナスダックに上場するレッド・キャット・ホールディングスの子会社ティール・ドローンを創業したジョージ・マタス氏は「ドローンのあらゆるハードウエアが完璧だと確認するエンジニアの膨大な労働力」を称賛し、業界の「完全なキラー」企業だと述べた。

DJIのドローンに代替となり得る製品が少ないことは、連邦資金を受け取っている地方の警察にとっては懸念材料だ。ドローン販売事業者を複数抱えているエンタープライズUAS(カリフォルニア州チャッツワース)のルーク・ゴールドバーグ社長によると、ほとんどの米国製商用ドローンはDJI製より最大30%高く、機能も少ない。

DJIの農業用無人機(2020年、深圳で) 

ユーチューバーのミラーさんは「米政府がドローンを購入する消費者を最初に取り締まらない限り、DJIが制裁リストに入っても状況はすぐには変わらないだろう」と話している。

原題:Drones Take Center Stage in U.S.-China War on Data Harvesting (抜粋)

 

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著者:Bruce Einhorn、Todd Shields

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