それから1カ月。12系客車は配属先である網干総合車両所宮原支所の片隅で、静かに休んでいた。
もともと12系客車は、1970年に開催された大阪万博の観客輸送などで使うために開発された。その大きな特徴は主に2点ある。1つは車体の大型化で、当時最新だった電車などと同じ設計を流用することにより、それまでの客車より幅を10cmほど拡大。さらに、長さも最大級の20.8mとした。座席は背もたれが固定されたボックスシートだが、その間隔は急行用電車よりも広く、向かい側の人と膝が当たらない。
快適性や安全性が向上
もう1つの特徴は、車両にディーゼル発電機を搭載した点だ。
それまでの客車は一部のグリーン車などにしかクーラーがなく、また暖房は機関車に搭載された蒸気発生装置(SG)や電気発生装置(EG)から熱源の供給を受けていた。つまり、これらの設備がない貨物用の機関車などで牽引する場合は暖房が使えず、またSGを使った蒸気暖房は機関車から離れるほど効きが悪くなるという問題があった。そこで、12系はクーラーを完備するとともに、一部の車両にディーゼル発電機を搭載。牽引する機関車を選ばず、すべての車両で冷暖房が快適に機能するようになった。
乗り心地のよい空気ばね台車を採用したことで、団体臨時列車に多い長距離運用にも対応。地味な進化としては、客車で初めて自動扉を採用した。ちなみに、「走るホテル」とも呼ばれた20系客車は、12系客車に似た折り戸を採用しているものの、こちらは扉のロックが自動でかかるというだけで、ドアの開閉は手動のため、発車時には乗務員がドアを閉めて回る必要があった。安全面では大きな進化と言える。
12系客車
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団体臨時列車などでの使用を目的に登場した12系客車。
その活躍は全国に及んだ(撮影:伊原薫)
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12系のうち末期に製造された車両は、幌が外吊り式となり
その両側の窓が縮小された(撮影:伊原薫)
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こちらが12系オリジナルの“顔”。幌が埋め込まれ、
両側の窓が一回り大きい(撮影:伊原薫)
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床下に設置されたディーゼル発電機。車体部分にある
グリルは吸気口(撮影:伊原薫)
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12系は空気ばね式の台車を採用。乗り心地が向上した
(撮影:伊原薫)
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客扉は折り戸を採用。行先表示幕も標準装備とした
(撮影:伊原薫)
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ボックスシートが整然と並ぶ車内。天井にはクーラーの
吹き出し口が見える(撮影:伊原薫)
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12系の車内。ボックスシートは間隔が
広く居住性が向上した(撮影:伊原薫)
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テーブルに設けられた栓抜き。使い込まれた
跡がある(撮影:伊原薫)
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窓際のテーブルと栓抜き。下に見えるビスは
灰皿を撤去した跡だ(撮影:伊原薫)
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屋根にはベンチレーターも設置。室内のレバーで
開閉できる(撮影:伊原薫)
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車端に表示された車両番号。トイレの使用を知らせる
ランプも懐かしい(撮影:伊原薫)
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折り戸となった客扉。内側に開くため注意喚起の
ロープがついている(撮影:伊原薫)
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行先表示幕に収録された駅名の一覧。いかに12系が
全国を飛び回っていたかがわかる(撮影:伊原薫)
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床下のディーゼル発電機。これにより冷暖房が
安定して使えるようになった(撮影:伊原薫)
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12系は運転士の訓練などでも使用された。
写真はその時の様子(撮影:伊原薫)
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主に12系客車を改造したジョイフルトレイン「あすか」。
大きな展望室が自慢だった(撮影:伊原薫)
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京都鉄道博物館の特別運転では、さまざまな
行き先が表示された(撮影:伊原薫)
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「ニセコ」のヘッドマークを付けたC62形による
牽引シーンも見られた(撮影:伊原薫)
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JR各社のほか第三セクターなどに譲渡された。写真は
若桜鉄道へ輸送中の12系客車(撮影:伊原薫)
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「SLやまぐち号」では展望車風や欧風に改造した
12系客車がしばらく使われていた(撮影:伊原薫)
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