ロンドン地下鉄大ピンチ、財政難で路線閉鎖も コロナ禍で収入激減、政府救済も期限が迫る

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イギリス政府も、公共交通の運営機関がコロナ禍のあおりで瀕死の状況になるのをただ眺めているわけではない。運輸省はコロナ感染拡大以降、ロンドンの交通網を維持するために40億ポンド(約6012億円)以上を投入している。

ただ、ロンドン交通局の財政危機については「全国民にとって公平な方法で、持続可能な財政基盤を見つけたい」としており、ロンドンだけに新たな資金を投入することに対しては後ろ向きな姿勢が見え隠れする。

地下鉄の駅に掲示された12月17日・18日のストライキの告知(筆者撮影)

交通局の広報担当者は「ロンドンの復興なくしてイギリスのコロナ禍からの復興はなく、首都交通網の適切な資金調達なくしてロンドンの復興はない。協議が早期にまとまることを期待している」と反応している。

交通局は財政危機を乗り切るためのコスト削減策として職員のリストラを挙げており、旅客案内に当たるカスタマーサービス部門で600人の人員削減を検討すると明らかにした。これを受け、2つの交通労組がストライキの実施を打ち出した。11月下旬以来、週末になると時限ストを繰り返しており、こうした状況が少なくとも2021年内は続きそうだ。

交通局は危機を乗り切れるか

政府は、ロンドン交通局に資金注入をする際の条件として、数年以内に再び収支を均衡させることを求めている。しかし、コロナ禍の終わりは見えず、一時的に政府の支援で財政危機を脱出しても、コロナ後の社会において長期的に健全な財政をどのように維持していくかという重い課題がのしかかる。

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カーン市長は、収支均衡を実現するために、いったんは市民への均等負担を求めていると報道された。ロンドン市民が各世帯ごとに支払っているカウンシルタックス(市民税のような地方税)を一律、年間20ポンド(約3000円)加算するとの提案だったとされる。「これで解決するなら喜んで払う」という声も上がってはいるものの、負担額の適正化は難しい問題であろう。

ついに世界的な大都市の地下鉄一部閉鎖という話が浮上するまでになった、コロナ禍による交通機関への深刻な影響。世界各国の交通機関にとっても、決して他人事ではない。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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