USJが低迷→驚異的復活を遂げた最も重要な本質 最も困難なのは計画の策定や商圏の分析ではない

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森岡氏はのちに「もしも失敗していたら、私一人が辞めればいいという問題ではないですからね。会社が倒産していたかもしれないわけですから」(「日経トレンディ」2016年11月号)と回想しており、USJにとっても社運をかけた投資であったことがわかります。

ハリー・ポッターエリアの開業は、USJにとって吉と出ました。従来は関西圏が中心だった客層が関東や海外にも広がり、広域からの集客という新しい需要の開拓に成功したからです。

こうして「お金を使わずに集客する」という小さな成功体験を積み上げたうえで、巨額投資をすることでUSJは経営体質を盤石にしました。2010年には750万人台だった入場者数は、2016年には1460万人を記録し、USJはV字回復を成し遂げたのです。

現在も、ゲームや漫画とのコラボレーションを積極的に展開するなど、独自の路線で多くの集客を実現しています。

誰にも負けない「執念」を持っているか?

USJが危機を突破できた大きな理由は、元P&Gのマーケター・森岡毅氏の功績ですが、さらに元をたどれば、その森岡氏の取り組みにはP&Gの日本法人(P&Gファー・イースト)に根付いている「執念」という企業文化が大きく影響しています。

『20社のV字回復でわかる「危機の乗り越え方」図鑑』(日経BP)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

マーケティングにおいてもっとも困難なのは、「計画の策定」や「商圏の分析」ではなく、「いかなる状況においても実行を貫くこと」といえます。特にUSJの場合は、反撃ののろしをあげようとした2011年3月に、東日本大震災という予想外の危機に直面し、出鼻をくじかれる形になりました。しかしそれでも「集客を続ける」ことを貫き、結果として年間入場者数の増加を実現したのです。

危機的な状況でも絶対にビジネスを成功させるという「執念」こそ、危機の突破に必要な心構えといえるでしょう。

大地震や津波、台風や大雨による水害などの自然災害や感染症の流行は、不可抗力のものではありますが、多くの場合、一過性で終わります。数カ月から数年程度不可抗力の危機に直面すれば、誰もが悲観的になり、思考停止してしまうこともあるでしょう。しかし、そのときにむしろ、あらゆる方法を考え尽くして描いたプランを遂行できるかが、その後の明暗を分けるのです。

杉浦 泰 社史研究家

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すぎうら ゆたか / Yutaka Sugiura

1990年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科を修了後、みさき投資を経て、ウェブエンジニアとして勤務。そのかたわら、2011年から社史研究を開始、個人でウェブサイト「The社史」を運営している。著書には、『20社のV字回復でわかる「危機の乗り越え方」図鑑』(日経BP)がある。
https://the-shashi.com/

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