HOYA、創業家経営者に問われる“負の影響力”の自覚《新しい経営の形》
“効率経営”を導いた、事業部制の弊害もあらわになる。
独立採算ゆえ、投資費用は各事業部のさじ加減一つで決まる。賞与が極端な業績連動型であることは、グループの社員であれば常識だ。09年に撤退したクリスタル事業部は、撤退前の数年間、管理職以上の賞与がゼロだった。「上層部は短期的利益を追い求めがちで、投資を最低限にとどめてしまう。しかし、わずかな投資をし、四半期ごとの費用対効果で中止していては、新規事業は創出できない」(元幹部)。
さらに、担当者に一任しているはずの、事業部の予算会議。月1回の会議で鈴木CEOは半分以上発言し、その一言で実行間際の戦略が白紙に戻ることもあるという。中興の祖とあがめられる鈴木哲夫氏の嫡男であり、創業家出身のカリスマとされる鈴木CEOの影響力は、本人が想像する以上に大きい。変わろうとするHOYAにとってマイナスに働くこともある。
浜田COOですら影響を受けている可能性がある。改革の期待を一身に背負った就任から2年。任されたペンタックス事業は不振が続く。米国での経験が長い浜田COOが得意とするのは、事業やエリアを超えてシナジーを出す「マトリックス経営」だ。対極を行くHOYAの縦割り体制に、今のところまったくといっていいほど影響を与えていない。
冒頭に登場した本社5階には、二人部屋の執務室のほかに、鈴木哲夫名誉会長、山中衛相談役(大株主)の部屋がある。浜田COO以外は全員創業家だ。関係者らは、「日々大株主らに囲まれ、浜田さんは過去を否定するような思い切った決断をしづらいのではないか」と案じる。
小さな事業の集合体で来たHOYAは、会社が一体となった際のシナジーを創出していない。これまでは、それでも利益を生んできた。だがこれからの10年は違う。研究の芽にたっぷり水をやり、事業部の垣根を越えて知恵を出し合うことでしか変化は生まれない。「会社は振り子のようなもの。変わることに意味がある」と自覚する創業家の長に、根元的な決意が委ねられている。
(前野裕香 =週刊東洋経済2010年7月31日号)
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