「本当は必要のない仕事」が多すぎる歴史的理由 「クソどうでもいい仕事」はこうして生まれる

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ここで参照されているケインズのテキストは「孫たちの経済的可能性」というエッセイです。1928年、ケインズは最初に、この原稿を少年むけの講演のために書きます。それから、かれはこの原稿に修正をくわえていきます。そのうち1929年の大恐慌がやってきました。最終ヴァージョンは、それをふまえ、この破滅的出来事すらささいな「一時的な調整不良の局面」とみなし、それよりも100年後、すなわちおよそ2030年、わたしたちのこの時代、「バラ色の未来」をおもいえがくよう誘っています。こうして、1931年にこのエッセイは公刊されました。

この20世紀におけるもっとも偉大な経済学者は、大きな戦争や人口の極端な増加がないとすれば、「経済問題(economic problem)」は100年以内に解決するか、解決が視野に入ってきているはずだ、といいます。経済問題というのは、ざっくりいえば、生存のための格闘の問題です。

そしてそれは「稀少性」の問題とがっちりとむすびついています。16世紀のオランダの画家にピーテル・ブリューゲルという人がいますが、かれの有名な作品に「怠け者の天国」というものがあります。これは、民衆神話を絵画にしたものですが、要するに、みんながのらくらしていても、勝手に口のなかにローストしたチキンが飛んでくるとかそんな、わたしたちのだれもが一度は夢見たことのあるだろう世界です。

こうした世界では、「稀少性」の問題がありませんから、「経済問題」もありません。そもそもエコノミーとは、「節約する」という意味ももっていますね。稀少な資源をやりくりするという問題でもあるわけです。ケインズは、これまでもっとも切迫した最大の問題だった「経済問題」あるいは生存のための格闘から、おそらくわたしたちのこの時代は解放されているだろうとみました(かつては窮乏していた人類が技術的向上などによりだんだん豊かになっていくという歴史観自体は常識的なものではありますが──「進歩主義史観」といいます──、端的にまちがっています。これについては、あとでふれます)。

「働かない」のも大変?

そう予想を立てたうえで、それ以降のことをあれこれ考察します。人間がはじめて、それまではそこに身も心も相当のエネルギーと時間を奪われていた経済の問題にふりまわされることをやめるのですから、それに慣れるのも大変です。わたしたちはどう生きるのか、が深く問われてきます。かれは、こういう印象深いことをいっています。

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