私鉄電気機関車、地方経済支えた「力持ち」の記憶 貴重な「古典機」がローカルの貨物輸送に活躍
専用線の電機についても触れておこう。とくに知名度が高かったのは三井三池炭鉱の専用鉄道(福岡県)であろう。独シーメンス製や芝浦製作所製などの凸形電機が活躍し、地元の人々に「炭鉱電車」として親しまれた。1997年の炭鉱閉山で本線は廃止されたが、旭町線(1.8km)はその後も三井化学専用線として2020年5月まで運行を続けていた。工場内ではパンタグラフからのスパークを避けるため非電化とし、電源車から電気機関車へ電力を供給して走行していたのも特徴的だった。
このほか、電気機関車が走る専用線としては、東海道本線の近江長岡駅から伊吹山麓まで3.7kmを結んでいた大阪セメント伊吹工場の専用線(滋賀県)もよく知られていた。1952年に開業、電化されてからはデッキ付きの箱形電機「いぶき501・502」号が導入された。同線は1999年6月に廃止されたが、501は大井川鉄道に転じ、ED501として現役だ。
今も残る個性的な電機
個性あるさまざまな私鉄電機は思い出が尽きないが、最後に今も姿をとどめ、ファンに人気の高い2つの機関車を紹介しよう。
1つは銚子電鉄(千葉県)のマスコット、デキ3形。1922年にドイツのアルゲマイネ社で製造された全長わずか4.5mほどの凸型電気機関車で、1067mm軌間では日本最小の電機だ。もともとは山口県宇部の炭鉱専用線で使用され、1941年に銚子電鉄にやってきた。市内の醬油工場の貨物輸送をはじめ、客車を牽いて走ったこともあったが、1984年の貨物営業廃止に伴い現役を引退。今は仲ノ町の車庫で保存されている。
もう1つは上信電鉄(群馬県)のデキ1形だ。1924年に同鉄道が改軌・電化した際に3両を導入した独シーメンス製の凸型電機である。1994年の貨物輸送廃止によって定期運用はなくなり、1両は廃車後静態保存されているが、残る2両はその後も工事用、イベント列車に使われることがある。鉄道愛好者の間では「上州のシーラカンス」のニックネームがある人気機関車だ。
今ではトラックにとって代わられた地方のローカル貨物輸送だが、かつては地域の中小私鉄が大きな役割を果たし、個性的な電気機関車が貨物列車を牽引して地方経済を支えていた。国鉄時代の車両は今も鉄道ファンに人気があるが、その傍らで活躍していた私鉄の電気機関車たちもぜひ忘れずにいたいものだ。
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