エリートに「突然休職する人」が意外にも多い理由 適応できるからこそ逆にストレスを自覚できない

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他者に適応することをやり続けると、自分のことを深く知ることが難しくなります。

より良きキャリアを追求していくためには、自分が職業人として何を重要視するか、どういうことにやり甲斐や心地よさを感じるかを知ることは、とても重要です。

それは自分固有の「周波数」を知るようなものです。無理して「合わせよう」としなくても、自分の持っている波長と合う環境を探すことができれば、自然と「共鳴」して良いパフォーマンスが出せるものです。

ミスマッチを経験することで、自分の中の「ハズレ」「キライ」「不快」がわかる。それがわかると、その反対にある「アタリ」の感覚も際立つのです。それは「失敗」ではありません。

休職=悪ではない

そもそも、休職はディスアドバンテージではありません。そこに「肯定的な側面」があることを強調したいのです。

とくに若い人に対しては、「『休職』『退職』『転職』の3つはできるだけ早いうちに経験しておいたほうがいいですよ」という話を積極的にしています。時代の変化が激しく、企業の寿命が短くなる中で、ひとつのところで定年まで勤め上げられる人はほとんどいません。われわれはキャリアのどこかで、必ず自分が望まない形での「路線変更」を強いられる運命にあります。ミスマッチはほぼ100%、どこかのタイミングで起こるのです。

そこで、「一度立ち止まり(休職)」「合わないことを認め(退職)」「軌道修正する(転職)」という経験を積んでおくことは、職業人生の中での大きなアドバンテージになりえます。むしろ、そうしたことをまったく経験せずに歳を重ね、ある日突然強制的に軌道修正を強いられたとしたら、選択肢の面でも心理的な面としても、より追いつめられた状況になりかねません。早めに経験しておいたほうが、キャリアを長期的に安定させることにもつながるのではないでしょうか。

私の知るかぎりでも、休職をきっかけに、自分にとって本当に大切なものがわかったり、人間関係や仕事のやり方が大きく変わったりして幸福度が上がっている方は多いです。

そうした方の「いやあ、休んでみないとわからないことがあるんですね」「この休職を経験しておいて本当によかった」という言葉を聞くたびに、一度立ち止まって自らを顧みることの重要さに気付かされます。

とくに、いつも周りの人の要求を満たすのに一生懸命な過剰適応タイプの人は、周囲のニーズから切り離された「休職」という環境になってはじめて、自分が何によって満たされ、何を大切にすべきかを考えられるのかもしれません。

鈴木 裕介 内科医・心療内科医

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すずき ゆうすけ / Yusuke Suzuki

2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズに参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。また、研修医時代の近親者の自死をきっかけとし、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、産業医活動や講演、SNSでの情報発信を積極的に行っている。

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