ビートルズ、2人が夜の街で出会った運命の瞬間 「ジョン・レノン 最後の3日間」Chapter1
そばには、ジョンが目をぎゅっと細めて立っている。人を見下すかのようなその表情は、さっきステージで演奏中に見せていたものと同じだった。
「観客の次は僕を見下してるってわけか。僕のこと、ただの太っちょのガキだと思ってるんだろうな」とポールは思った。
「リバプールで一番クールな男に、誘ってもらえたぞ」
演奏が終わると、ポールは自分でも作詞に挑戦してみていることをジョンに話し、「エッセイを書くみたいに、クロスワードを埋めていくみたいに書くんだ」と説明した。
ジョンは、興味なさそうにうなずいた。
ポールは次に、そばにあったピアノの前に座ると、ジェリー・リー・ルイスのヒット曲「ホール・ロッタ・シェイキン・ゴーイン・オン(Whole Lotta Shakin’ Goin’ On)」を弾き始めた。音楽に深く入り込み、ジェリー・リーさながらにピアノのキーを叩く。
ふいに、肩にジョンの腕の重みを感じた。ジョンがポールに寄りかかって、右手で高音パートを器用に弾き始めたのだ。
「こいつ、酔ってるな」、ポールは気づいた。
曲が終わると、「そろそろパブに移動するぞ」とジョンが言った。ポールの胸は高鳴った。
「リバプールで一番クールな男に、誘ってもらえたぞ」
だがその興奮の裏には、不安も隠れていた。父親を含め、大人たちは口を揃えてジョンのことをこう言っていた。
「あいつに近づくと、面倒に巻き込まれるぞ」
人を威嚇するような目つきに、長く伸ばしたもみあげ、襟を立てたシャツ。それが、人々の目に映るジョン・レノンだった。
「ジョンは、見かけることはあっても実際に知り合いになるのは難しい類の男だったんだ」
そのジョンとようやく知り合うことができたいま、ポールは彼についてまわった。
(次回記事:ビートルズの「3人目」決定までのもどかしい経緯)
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