金融界が驚嘆!山陰の地銀「前例なき変身」の中身 銀行内部でも異論、「ルビコン川を渡った」決断

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「どの階層をターゲットにしているということはない。しかし、いままであまり手が届いていなかった超富裕層にも提案できるようになるだろう。一方、資産形成層には積立型投信をお勧めして、かなりの実績が上がっている。野村証券も『一日で、こんなに件数が積みあがるのはどういうことなのですか』とその実績状況には驚いている」

こう近況を語る山崎頭取は、このモデルを改めてこう定義づけしている。

「われわれにとってよいことは野村にもよいことでなければならないし、私たちに悪いことは野村にも悪いことでなければならない。そういうパートナー型のモデルだ。これはほかの銀・証提携モデルではなかった関係だろう」

そのベースにあるのは、顧客からの信頼性、顧客の満足度を重視する地銀本来の発想である。既存の観念にとらわれずに、時代の変化にマッチしたベスト・プラクティスを追求している。山陰合同銀行に続いて、徳島県の阿波銀行が同様のモデルを開始している。証券リテールのメタモルフォーゼは広がりつつある。

山崎氏が得ている手応えは野村証券にもある。新井聡・同社副社長は「ストック資産純増額、積立契約など、事前の想定を大きく超えるペースで進捗している」とモデルの果実の大きさを強調したうえで、次のように語っている。

「当社が持つ証券口座は銀行口座に比べると少なく、証券会社だけでできることには限界がある。地銀と組むことで相当のプラス効果が出ている」

程度の差はともかく、「できることの限界性」は銀行にもある。それは顧客に提供できるサービスのすそ野の広さ、さらに品質面の限界でもある。

それを相互に補完すれば、限界を超えて、より魅力的なサービスの提供が実現できる。山陰合同銀行・野村証券のモデルはそれを示していると言えそうだ。

ゲートキーパーの側面が高まる地銀

ところで、地銀の役割を考えてみると、各地の経済・社会のゲートキーパーという側面が高まっているように思える。

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金融が日進月歩で進化するなかで、素晴らしいプレーヤー、あるいは新たなビジネス、商品が開発されてきているが、逆に複雑でリスキーであり、さらには不明朗なビジネス、商品であっても美辞麗句であふれた謳い文句で地域に持ち込まれるリスクが生じている。それもまた、現代金融の一断面だ。

顧客からの絶大な信頼を得ていれば「気を付けないといけませんよ」とアドバイスし、顧客、そして、地域を守ることもできる。

そんな金融パーソンを育て上げるためにも、コスト構造を革新して信頼をさらに向上させる営業プラットフォームの質的な強化が求められているように思える。

山陰合同銀行によるチャレンジからはその道筋が見えてくる。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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