元テスラの「天才エンジニア」が作った車のヤバさ 「モデルS」設計者が設立したルーシッドの凄み
新興電気自動車(EV)メーカー、ルーシッド・モーターズが記念すべき第1号モデルの製造を開始したのは約2カ月前。納車はようやく始まったところにすぎない。だが実際の道路上での存在感の低さにもかかわらず、同社はたいへんな注目を浴びている。
自動車評論家が絶賛、時価総額でフォードを抜く
デビューモデルとなった16万9000ドル(約1900万円)のセダン「ルーシッド・エア・ドリームエディション」は、その完成度の高さと1回の充電で520マイル(約837キロメートル)走行できるという航続距離性能で高い評価を集めている。アメリカの自動車雑誌『モータートレンド』は、このモデルを今年のカー・オブ・ザ・イヤーに選出。過去1カ月でルーシッドの株価はぐんぐん上昇し、時価総額でフォード・モーターを抜く場面も出てきた。
このような高い評価は、CEOのピーター・ローリンソンに向けられたものだ。テスラが本格的な自動車メーカーの地位を手にするきっかけとなった「モデルS」の開発を手がけた自動車業界のベテランである。そしてローリンソンは今、「モデルS」がテスラ飛躍のきっかけとなったように、「エア」によってルーシッドを本格的な自動車メーカーの座に押し上げようとしている。
「最初の製品がブランドイメージを決める」。ローリンソン氏は先日、アリゾナ州の砂漠地帯にあるルーシッドの工場でこう語った。「ルーシッドには技術的な離れ業をやってのける力がある。私たちの手で、私たちのブランドと未来を定義する」。
EV業界では、電動ピックアップトラックの新興メーカー、リビアンの時価総額が上場後1週間とたたずして約1090億ドルに到達。ルーシッドの高株価の背後にも、投資家のEV熱がある。
だが、事業上のリスクは枚挙に暇がない。実際、同社が上場に向けて用意した目論見書には、開示を義務づけられているリスク情報が44ページにわたって記載されている。大量生産の経験もサービス網もなく、ローリンソン1人に経営を大きく依存している、といった内容だ。イギリス・ウェールズ出身のローリンソンは64歳。彼も人間である以上、亡くなるときが来る。
現在のEV熱はバブルであり、そのうちはじけると考える投資家も多い。実際、ルーシッドは空売り勢の標的にもなっている。