元テスラの「天才エンジニア」が作った車のヤバさ 「モデルS」設計者が設立したルーシッドの凄み
ルーシッドの株価はチャーチル・キャピタル・コーポレーションIVという特別買収目的会社との合併を通じた7月の上場以後、数カ月にわたって低迷が続いていた。株価が上昇し始めたのは10月。アメリカの自動車雑誌『ロード&トラック』が、「エア」は「テスラに冷や汗をかかせるほど素晴らしい」との評価を下したことがきっかけだった。
ローリンソンに対する投資家の信頼は、主に彼の経歴から来ている。ジャガーとイギリスのスポーツカーメーカー、ロータスでそれぞれ主幹エンジニアとチーフエンジニアを務めた。バッテリーなどの技術で数十件の特許を取得してもいる。ルーシッドにはEVレース「フォーミュラE」のバッテリーを開発し、全チームに供給した実績があるが、このプロジェクトを監督したのもローリンソンだった。
イーロン・マスクとの確執
だが自動車の大量生産は、別次元の挑戦となる。「エア」は最安モデルでも、テスラ「モデルS」の最強グレード「プラッド」の価格を3万5000ドル近く上回る。会社として利益を出すには、超富裕層エリート以外にも客層を広げることが欠かせない。
ルーシッドが費やした資金は6月時点で42億ドルに達しており、同社が利益を出せるようになるには、まだ何年もかかる可能性があると目論見書には記されている。
その一方で、EV市場の競争は激しさを増している。フォード、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォルクスワーゲンといった既存の大手メーカーがEVに重点投資するようになってきているからだ。
もっとも、ローリンソンはこれまで、懐疑的な人々に対し自らの正しさを証明し続けてきた。ローリンソンによれば、「モデルS」は成功しないという人もいたし、ルーシッドが航続距離500マイルのEVをつくって今年中に工場から出荷するのは無理だと言っていた人もいる。
「私のこれまでの実績が示しているように、非現実的と思えるようなことを言っていても、その土台にはしっかりとしたサイエンスがある」とローリンソン。
ローリンソンにとって、ルーシッドの成功はひときわ甘い蜜の味がするに違いない。というのも、彼がテスラを去ったのは、気まぐれなCEO、イーロン・マスクに我慢ならなくなったことが原因だったからだ。