フィリピン大統領選で異色のコンビが有力に 2022年5月、独裁者と現職大統領の子どもが出馬

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日本の感覚からすれば、ファーストファミリーのとんでもないドタバタ劇にみえるが、フィリピンでは一家の信用を失墜する騒ぎとはみなされていない。選挙への出馬をめぐってドゥテルテ父娘はこれまでも言を左右してきたし、大統領は他の重要な政治案件でも時に突飛な言説を繰り返してきた。

国民も食言や公約違反などと問題視することはなく、「近所によくいるおじさん」のような言いぐさがむしろ高い人気の一因にさえなってきた。一貫しない、言い換えれば変幻自在ともいえる発言は、単なる思い付きやジョーク(のつもり)の時もあるが、政治的な観測気球と受け止められる場合も多い。

家庭の事情は外からうかがい知れないし、サラ氏が父の言うことを従順に聞くタイプでないことは衆目が一致するところだ。それでも、サラ氏が勝手に動いているという大統領の発言を額面どおりに受け取るわけにはいかない。ボン・ゴー氏が大統領選に当選する可能性は極めて低いからだ。

関係深める新旧大統領一家

ドゥテルテ氏には権力から遠ざかるわけにはいかない事情がある。2016年の就任以来、肝いりの「麻薬撲滅戦争」で、少なくとも数千人の人々が司法手続きを経ないままに殺害されてきた。政権を離れ、権力から遠ざかれば責任者として訴追される恐れが十分にあるのだ。

実際にフィリピンでは今世紀に入り、エストラダ、アロヨという二人の大統領経験者が任期後に次の政権から訴追され、投獄されている。ドゥテルテ氏の場合すでに国際刑事裁判所(ICC)が捜査を開始している。政敵が権力を握れば、収監されることも、ICCの検察官に捜査協力することもありうる。

76歳の大統領にとっては、この事態は何としても避けたい。そのためには、娘を後継に据えることが最も確実な防御となったはずだ。微妙な関係であったとしても娘は娘。家族のきずなを大切にするフィリピンにあって父が塀の中へ転落することを座視することはありえない。そもそもサラ氏の政治的地位は父親の威光があればこそだ。

それではなぜサラ氏は勝ち目のあった大統領選に出馬せず、マルコス氏と組んでナンバー2を目指すのか。私は大統領を含めた両家の合意があったとみる。

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