ベラルーシから欧州へ「移民殺到」人道的な大問題 英国はロシアとの偶発的な戦争リスクに言及
ベラルーシ当局は発表していないが、実際のところ、ベラルーシの首都であるミンスクでは数百人に上る移民が町中の商店や地下通路、マンションの入り口などに住んでいるとのミンスクの住民の話もある。
ノーバヤ・ガゼータ紙(編集長のムラトフ氏が今年のノーベル平和賞を受賞)によれば、ビザの期限内に出国できず、やむなくベラルーシへの政治亡命を希望したクルド人の1人は、すぐに強制送還されたということだ。これについて同紙は、ルカシェンコ大統領は、ポーランドの国境警備隊を挑発するという機能を拒否する移民に「人道支援」を与えるつもりはないのだと皮肉っている。
ロシア「移民流入はそもそも西側の責任」
移民たちが本当に目指しているのはドイツである。プーチン大統領は、13日のテレビインタビューの中で、ドイツに行けば働かなくても高い生活保護が得られ、祖国で働くよりも多い額の支援金をもらえるのだから、移民がドイツに向かうのは当然だと言い、ベラルーシが問題なのではなくむしろ西側諸国によるイラク戦争、シリアへの介入、アフガニスタン占領がすべての発端だと主張している。
プーチンの言いたいのはこういうことだ。そもそも、アメリカやヨーロッパの同盟国たちが自分たちの理想を押し付け、中東の国々に軍事介入したために、これらの移民が発生しているのだから、その理想にふさわしい扱いをするべきである、と。一理ある主張ではある。が、移民を意図的に流入させているとすれば、また別の話だろう。
実は、ヨーロッパ諸国は、ベラルーシの背後でロシアが糸を引いていると非難を強めている。イギリスのトラス外相は、移民をチェスのコマのように利用して不安定化を図っているとし、ポーランドのモラヴィエツキ首相も、移民を盾として利用する新型戦争だと主張している。いわゆる「ハイブリッド攻撃」だというのだ。
東欧諸国がこうした疑いを抱くのは理由がある。ロシアによる東部ウクライナ紛争への介入だ。2014年以降、ロシアの西部国境の一部であるウクライナとの国境付近で分離派武装勢力が台頭し、ロシアが分離派勢力を支援しているのだ。これがウクライナを分断させることになっている。
冒頭で紹介したカーター国防参謀長は、冷戦時代の外交術やそのメカニズムが失われてしまった今、偶発戦争の危険性がかつてなく高まっていると警告を発しているが、それはこうした事態を指してのことだ。
このように、移民危機は単なる一過性の事件ではなく、地政学的な背景から見る必要があるのだ。
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