勝者なき総選挙に見た「来夏の参院選」勝敗のカギ 単独過半数を確保した自民党も安泰ではない

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実際の選挙結果はどうか。自民党は石原伸晃元幹事長が選挙区、比例区とも落選。選挙戦を指揮する甘利幹事長が選挙区で敗退し、比例復活するという前代未聞の事態も起きた。甘利氏は辞任。後任には茂木敏充外相が起用された。

一方では自民党候補が、選挙の強さで定評のある立憲民主党の小沢一郎元自民党幹事長、中村喜四郎元建設相らを打ち破るという底力も見せた。自民党は15議席減の261議席を獲得、32議席の公明党と合わせて与党は293議席となり、全体(465議席)の6割を超える圧倒的多数を維持することになった。

立憲民主党では、甘利氏に競り勝った太栄志氏、桜田義孝元五輪相を抑えた本庄知史氏ら新顔の活躍も目立った。

ただ、辻元清美副代表や平野博文選挙対策委員長ら幹部が相次いで落選。接戦区でも自民党に力負けするケースが目立った。選挙前の110議席から14議席減らす96議席にとどまった。とりわけ比例区の当選者が、前回(2017年)の62議席から39議席に大幅減となった。共産党との候補者一本化などへの反発があったとみられる。枝野幸男代表と福山哲郎幹事長は辞任を表明、新しい執行部を選出して再スタートすることになった。

維新は、自民党や立憲民主党などが「分配」を打ち出す中で、規制緩和などの「改革」を訴え、近畿圏だけでなく関東や東海でも比例票を掘り起こし、11議席から41議席に躍進した。ただ、実際に改革路線をどう具体化するかとなると簡単ではなく、政権を担うまでには時間がかかるだろう。

有権者の気持ちを捉えた戦いもあった

自民党は、総裁選を通じて国民に総裁候補の存在をアピールし、トップリーダーをすげかえることで危機をしのいだ。立憲民主党は自民党への逆風に期待して、野党候補の一本化を進めて与党に挑んだ。それでも両党とも議席を減らし、決定的な勝者のいない総選挙となった。

その中でも、有権者の気持ちをとらえた選挙があった。例えば高松市を中心とする香川1区で、平井卓也前デジタル担当相を約2万票の大差で下した小川淳也氏の戦い。小川氏は、ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」で名前を売ったが、その選挙は、映画で描かれたとおり、愚直そのものだ。

小集会でコロナ対策や社会保障政策を説明する。コロナ禍で苦労する出席者の質問に丁寧に答える。地元の新聞社やテレビ局の事実上のオーナーである平井氏という「厚い壁」に挑んできた自身の苦労話を率直に語る。小川氏の事務所に集うのは、ほとんどが、小川氏の訴えに共鳴したボランティアの人たちだ。そんな地道な活動を積み上げれば、自民党のベテラン候補を打ち破ることも夢ではないことを実践して見せたのが、今回の選挙だった。

コロナ禍の中で、多くの国民がダメージを受けた。感染しても入院できない、後遺症に悩まされるというケースをはじめ、医療や介護の現場は厳しさを増した。子供を預かる学校の悩みも尽きない。飲食店、旅行関連などの不振はなお続いている。多くの国民が経済的影響だけでなく、精神的にも打撃を受けている。

政治家が、双方向でそうした国民の気持ちをくみ取れるかが、この総選挙の大きな焦点だった。国民の苦境を受け止めて政策にまとめ、法律や予算に落とし込んでいくという民主主義政治の原点が問われている。小川氏はそうした国民との双方向対話型の政治を進めたといえるだろう。

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