いまだ支持伸びぬ野党が魅力取り戻す3つのカギ 密着取材の映画が反響呼んだ小川淳也氏が語る

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立憲民主党の国会議員として、2009~12年の民主党政権が未熟さ、稚拙さもあり3年で倒れたことは、国民に対して今でも申し訳ないと思っている。国民が民主党にがっかりしただけならまだよかったが、政治そのものにまでがっかりしてしまった可能性がある。

ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(Netflixで配信中)で密着取材を受けた小川氏。東京大学法学部卒業後、自治省(現:総務省)に入省。その後、衆議院議員を5期務めた(写真:©️ネツゲン)

民主党が政権を奪った2009年8月衆院選は、投票率が69.28%と近年類を見ない高さだった。だがその後の衆院選は、投票率が3回とも50%台にとどまっている。有権者の約20%に当たる約2000万人が、投票所から足の遠のく結果となってしまった。

中村喜四郎・前衆議院議員(立憲民主党)が国民の政治への関心の低下について、「安倍晋三政権は、国民を諦めさせることに成功した史上初の政権だ」と言っている。投票率を見ると、まさに中村氏の指摘が的を射ていると思える。

政権政党として再び認められるために必要なこと

野党が魅力を取り戻すにはカギが3つある。

1点目は無私・無欲の姿勢だ。経済が低迷する中、拡大成長期のように「パイの分配が政治の仕事」とは言えない時代になっている。昭和の政治のように権力を私物化し、選挙区にパイを分配することは難しい時代だ。

厳しい時代だからこそ、政治家自らが無私・無欲の姿勢で政治に取り組まなければならない。自民党の長期政権が権力を私物化した。では一方の野党は無私・無欲の姿勢なのか、という有権者の問いかけに応えなければならない。

2点目はやはり政権時代の真摯な反省と総括だ。民主党が政権を担った3年間について、何を反省しどのように総括し、それを今後どのように生かすのか。その答えを国民に明確に伝えないと、聞く耳を持ってもらえない。現実に10年近く経ってもなお、野党の支持率は上がらない。国民の傷は癒えていないと考えるべきだ。

3点目は政策だ。人口減、低成長、財政悪化、気候変動といった、歴史上経験したことのない構造問題に日本や世界は直面している。このような大きな問題にどんな政策で臨むのか、体系立った全体像を国民に示す必要がある。

この3点がそろわないと、政権政党として野党が再び認められることは難しい。長期的には、日本の最大の問題は人口減少と高齢化だ。年間40万人の人口が減っており、やがて年100万人減のペースになる。また高齢化率も29.1%(2021年)が40%にまで上昇し、そこで天井を打つ。

人口減と高齢化を前提に社会の構造を大きく組み替えないと、財政危機、極端な円安、インフレなど多大な犠牲を払うハードランディングが避けられない可能性もある。(日本が経験したハードランディングである)太平洋戦争の時代を振り返り、日中戦争や日米開戦といった不可逆的な危機を避け、ソフトランディングできる可能性はなかったのか、歴史のイフを考えることがある。

今後の日本も、社会全体が持続可能性を回復しソフトランディングできるよう、政治家、政党はあらゆる不都合を包み隠さず国民に説明して、対話と説得に努めるべきだ。全体的な構造問題に触れずに、成長戦略や少子化対策といった単体だけを議論しても、国民が暮らしの不安から解放されることはない。

林 哲矢 東洋経済 記者

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はやし てつや / Tetsuya Hayashi

日本経済新聞の記者を経て、ハーバード大学(ケネディスクール)で修士号。『週刊東洋経済』副編集長の後、『米国会社四季報』編集長。

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