いや、しばし、ではなかった。
店の棚をゆるりと物色しながら楽しく待てばいいやと思っていたんだが、隅から隅までじっくり眺め、気になる本は手に取って何ページか読んでもまだ終わらない。店内を3周くらいして、もしや何か問題でも……? と不安になったところでようやく「お待たせしました」と声をかけていただき、ホッとしてレジに向かう。
いやー、この後起きたことはいまだに忘れられません。
「40円です」。お姉さんはそう言った。
私はうろたえた。いや、40円……って。もちろんそれほどの値段はつくまいとは思っていたけれど、にしても想定をはるかに超える価格!
両手いっぱいの本である。重かったんである。がんばって持ってきたんである。そしてこんなに待ったんである。腹がたつとかなんとかではなく、そのあられもない数字を前に、がんばった自分がひたすら滑稽で、恥ずかしかった。綺麗なお姉さんにそんな間抜けな数字を言わせてしまったこともなんだか申し訳なかった。
値段をつけられた「気の毒な本たち」
レジの前に、私の本がうず高く積まれている。
私が愛した本。ついこの間まで手放すことを躊躇した本。その頃はえらく輝いていた本。それが今や、実にうらぶれて見えた。まとめて40円というレッテルを貼られ、すっかり自信をなくして下を向いている感じ。どうにも気の毒なことこのうえない。
こんなことならむしろタダでよかったのに……そうだよ、タダで寄付したほうがずっとずっとよかった!
それなら待つこともなかったし、それよりも何よりも、私って太っ腹だよ良いことをしたと胸を張っていられた。本だって堂々と旅立っていけたに違いない。それが値段をつけられたばっかりに、すべてがひっくり返ってしまったのである。
なるほどお金とは、なかなかに恐ろしいものだ。
もの自体は同じでも、いくらの値がついたかで急に、そのものに「価値」がついてしまう。1万円なら良いもの。5円ならダメなもの。
でもよく考えてみれば、それは単なる幻だ。他人の目から見た1つのレッテルにすぎない。自分にとって良いものであれば、それが他人から見てどれほどヘンなものであれ、不要なものであれ、どうということもないはずである。
なのに、いざ実際に数字がついてしまえば、どうしてもその数字に振り回されてしまう自分がいた。
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