アメリカはこれを、一定の数量までは無税(または極低税率)で超過部分に高関税を課す「関税割当制度(tariff-rate quota)」に置き換える検討もしているようだが、本来、同盟国を安全保障上の脅威とみなす認識自体が問われなければならない。さらには、CPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)参加に前向きな議論が聞かれないことは、同盟国・同志国で協力してルール形成というバイデン政権の方針に疑問を投げかける。
同盟国等との協調が重要―CPTPPも活用すべき
タイ演説の歯切れの悪さは、交渉の自由度確保を越えて、アメリカの対中貿易政策の閉塞状況を示す。対中世論が厳しい中、成果なしで関税撤廃できないが、対中圧力強化で中国が構造問題を解決するかは疑わしい。
国内投資で自らの競争力を高め、また、同盟国等と協調し、強い立場から中国に臨むというタイ代表の考え自体は妥当なものだ。同盟国等との協調には、G7、クワッド(日米豪印)、アメリカEU貿易・技術評議会といった場の活用と共に、日米欧によるWTO改革に向けた協働も重要だ。
さらには、中国はCPTPP加盟を申請したが、これを活用し、
② 透明性向上を含む補助金制度の改革
③ 強制労働の禁止を含む労働者の権利確保
④ ソースコードの開示要求禁止を含む自由なデータ流通の確保
を図ることは、中国の不公正な貿易慣行を改めるというバイデン政権の政策の後押しとなる。また、
という約束も必要となろう。これら①~⑤を含む問題に関して、単なるコミットではなく、相当の経過期間を設けて中国の実際の行動を確認し、そのうえでCPTPPへの参加を認めるというアプローチが適切だ。従い、中国のCPTPP参加は、認められる場合にも相当の時間がかかる。条件を満たすほかの国・地域が先に加盟を認められることも想定すべきだ。
アメリカは、USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)の毒薬条項(メキシコ、カナダが非市場経済国と自由貿易協定に入る場合にアメリカはUSMCAを脱退できる)を使い、中国のCPTPP参加を実質的に阻止できる。しかし、アメリカもCPTPPに参加し、ルール形成者として役割を果たしつつ中国の不公正な慣行を正すほうがより優れた戦略と言えよう。
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