「渋沢栄一」後も「1万円札」が廃止にならない理由 現金とキャッシュレスの絶妙なバランスは続く

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(4)技術の伝承

この新紙幣の発行であるが、この“20年”というところにも重要な意味がある。実は紙幣や硬貨の原盤では“手”で彫っている部分もあるし、工程で原版の焼き付けなど製造現場の”技”に頼っているところがある。

そのため、いわゆる“技術”の伝承が必要不可欠となる。そのときに大事なのはその発行の“間隔”である。20年が職人的な技術の伝承には限界となっている。これは非常に大事なところである。日本の製造業はいまでも大事な部分は職人的な技術に頼っている部分があるのである。

(5)タンス預金のあぶり出し

キャッシュレス政策の推進によって、現金の需要は減ってきている。そのため、紙幣の新規印刷数は4年連続減少している。しかし、いわゆる”タンス預金”は100兆円を突破し120兆円と積みあがっている。これはやはり、超低金利政策が影響している。

このタンス預金はマネーロンダリングに使用されたり、脱税に使用されたりする可能性がある。そのため、政府はこのタンス預金を減らしたい。

このタンス預金をあぶり出すのに効果があるのが「新紙幣」なのである。インドなどは銀行で新紙幣に交換するが、その金額はそのまま、税務署に報告され補足されることになった。高額な取引で旧札を大量に出すのは違和感がある。その違和感が犯罪を防止するのである。

現金決済は減っていくがゼロにはならない

実はこの政策は“バランス”の問題なのである。戦後の日本では、中国のような即時一律や義務的な規制や政策はできない(教育についても緩んでしまい、日本人のレベルの低下が進んでいる)。そのためさまざまな政策の実施には時間がかかる。

現在の状況は、キャッシュレス化は確かに進んでいて、「使用」における現金の需要は徐々に落ちている。製造量も減らしている。「貯蔵」における現金(タンス預金)は増加中である。しかし、これも新紙幣によって徐々に減少することが予想される。これにより、さらにキャッシュレス化の“バランス”が高まっていく。

また、最も重要なのは現金(紙幣・貨幣)を担当しているのは「財務省」と関連組織の「日本銀行」グループ、キャッシュレス化を推進しているは「経済産業省」。この2つのグループの“バランス”の問題でもあるのである。

宿輪 純一 帝京大学経済学部教授・博士(経済学)

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しゅくわ じゅんいち / Junichi Shukuwa

帝京大学経済学部教授・博士(経済学)。1963年生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒。富士銀行、三和銀行、三菱東京UFJ銀行を経て、2015年より現職。2003年から兼務で東大大学院、早大、慶大等で非常勤講師。財務省・金融庁・経産省・外務省、全銀協等の委員会参加。主な著書に『通貨経済学入門(第2版)』『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞出版社)、『決済インフラ入門〔2020年版〕』(東洋経済新報社)、『円安vs.円高(新版)』『決済システムのすべて(第3版)』『証券決済システムのすべて(第2版)』『金融が支える日本経済』(共著:東洋経済新報社)などがある。

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