「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ

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日本のPGSは対GDP比で見ると10%にも満たず、先進国平均の24.4%を大きく下回っています。おそらく、高齢者比率が世界一高いので、PGS比率が先進国最低水準になってしまっているのだと思います。

今後、高齢者の数は減りませんから、社会保障費の負担は減りません。しかし、経済を維持・成長させるには、PGSの増加は不可欠です。よって、諸外国以上に対GDPの政府支出を高めなければなりません。プライマリーバランスの黒字化が当面困難になるほどの巨額の財政出動が必要であることは、「成長戦略会議」の委員として何度も指摘してきました。

先述したように、日本は1億人以上の人口を抱えた人口大国です。人口が1億人を超えている国は世界で14カ国しかありません。人口は世界第11位、GDPは560兆円で世界第3位の経済大国です。

このような巨大な国の経済を動かすには、相当規模の金額でなくては不可能です。だから、これまで政府がつけてきたような1兆~2兆円レベルの予算では経済政策は成功しないと訴えてきました。

自民党総裁選挙に立候補した高市早苗議員が主張していた、10年100兆円のインフラ投資でも(中身の議論は別として)、規模的には足りないくらいだと思います。当初は抑えめに始めても、徐々に増やし、最終的には数十兆円単位の年間予算とするのが理想でしょう。

諸外国と同じレベルまでPGSの対GDP比率を引き上げようとすると、社会保障費の負担増もあるので、プライマリーバランスの黒字化はさらに難しくなります。

とはいえ、高齢化の進展で社会保障費の負担が増える中でも、あえて政府支出を増やして投資を喚起し、財政の健全性を示す「借金/GDP」の分母であるGDPを大きくするのは、国益にかなっています。これは甘利明幹事長が主張しているとおりです。

逆に、今までのようにPGSを抑え続けていけば、GDPも減ってしまいます。分子が減るのを分母が追いかけて減ることになるので、財政の健全化目標はいつまで経っても達成できません。似たような現象は江戸時代にも起きていたので、その歴史を振り返るだけで、同じ轍を踏む結果になるのは明らかです。

財政出動の基準は「雇用の質、雇用の量、乗数効果」

ただし、やみくもに財政支出を増やしても、狙っている成果にはつながりません。財政出動の判断基準を何に置くかは、真剣に議論するべきです。

岸田文雄新総理は経済対策に積極的なようですが、すでに巨額の借金があるうえ、大地震への備えも必要なので、何に対して予算をつけるべきかの評価基準、またどういう成果を求めて政策を実施するべきかの基準は、絶対に定めておかなくてはいけません。

この議論の本質からすると、基軸にするべきは「(1)雇用の質(賃金水準)」「(2)雇用の量」の2つです。

これから、日本では生産年齢人口が約3000万人も減少します。GDPを縮小させることなく、ますます貴重になる人材を、どの業種のどういった企業を中心に配分するかも重要なポイントになります。労働参加率を低下させることなく、賃金を引き上げる政策が求められます。あえて言うまでもなく、これは日本にとってとても重要な「経済政策」です。

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