アメリカ株を揺るがす「4つの懸念材料」とは何か ついにスタグフレーションがやってくるのか

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岸田首相が8日に行った所信表明演説については、「改革」という文言がないことを挙げて、批判的な意見が多い。筆者は、改革に取り組むことは重要だと考えているが、安倍晋三政権から続いてきたマクロ安定化政策をどう運営するかが現在の日本の政治リーダーにとって最重要政策であり、これが変わるかに最も注目していた。

所信表明では、経済政策の部分の冒頭で「マクロ経済運営については、最大の目標であるデフレからの脱却を成し遂げます。そして、大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の推進に努めます」と述べた。これは安倍政権からまったく変わらない経済政策方針であり、かなり安心できる文言である。

それに加えて「経済をしっかり立て直します。そして、財政健全化に向けて取り組みます。そのうえで、私が目指すのは、新しい資本主義の実現です」と述べている。経済を立て直した後に財政健全化に取り組むという、これは妥当な優先順位である。

「成長も、分配も」を実現する具体的な政策とは

「新しい資本主義」というフレーズは、「分配重視」の態度と相まって各方面から批判されている。こうした点を意識してか、演説では「『成長か、分配か』という、不毛な議論から脱却し、『成長も、分配も』実現するために、あらゆる政策を総動員します」と述べた。

安倍政権において、金融政策のレジームを転換してデフレを和らげて失業率を低下させることで経済成長が高まった。2016年から経済成長を幅広く行き渡らせるために、「1億総活躍社会プラン」を掲げて、ここにも「成長と分配の好循環メカニズムの提示」とあった。こうした意味で、岸田首相の政治信条などから分配政策が重視されているが、安倍政権からのマクロ安定化政策の継続が大きな方針になっていることが確認された。

もちろん、「分配」を理由に金融所得課税などの増税を早期に実現しようと考えている自民党政治家や官邸スタッフは少なくないだろう。早期に現在の方針が骨抜きになれば、景気刺激的な金融財政政策が早々に後退するリスクがある。このリスクは2022年の岸田首相の政権運営によって浮上する可能性があるが、短期的には緊縮財政政策に転じる可能性が低いことが確認されたという意味で、日本株市場の下押し要因にはならないと見込んでいる。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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