36日間で欧州26カ国を走破した「特別列車」の使命 環境意識が高まる中で「ヨーロッパ鉄道年」をPR
2021年9月2日、ポルトガルのリスボン・オリエンテ駅から、1本の見慣れない青い車体の列車が発車した。行先はフランスのパリ、ただしその到着は10月7日。まっすぐ終点へ向かうのではなく、約5週間、36日をかけて33カ所の国境を越えながらヨーロッパ26カ国、100以上の都市を訪問し、終点のパリを目指すという「コネクティング・ヨーロッパ・エクスプレス(Connecting Europe Express)」だ。
欧州委員会は、2050年までに気候中立を実現するための「欧州グリーンディール」に基づくEUの取り組みの一環として、2021年を「ヨーロッパ鉄道年」に制定した。鉄道がほかの交通機関と比較して温室効果ガスの排出量が少ないことはよく知られているが、この列車はヨーロッパ鉄道年にちなみ、持続可能でスマートかつ安全な輸送手段である鉄道の利点を強調し、広く世間に知ってもらうことを目的として運行された。
鉄道をPRし欧州をつなぐ
コネクティング・ヨーロッパ・エクスプレスは、欧州委員会交通総局(DG Move)、欧州鉄道・インフラ企業共同体(CER)を中心に、国際鉄道連合(UIC)、各国鉄道事業者、インフラ管理者、その他のパートナーを含む40の組織が、EUおよび地方レベルで協力してつくりあげた列車である。
立ち寄った各都市では、各国の政策立案者やその関係者、あるいは選ばれた市民、学校の子供たちなどを招き、鉄道の未来に関わる会議や勉強会、歓迎イベントなどを開催した。中にはチェコのように運輸大臣自らが出迎え、会議を開くような国もあった。また一部の国では、列車の到着に合わせ、運輸およびエネルギー関係の会合や鉄道サミットなど、重要なイベントが併せて開催された。
同じ編成が各国を巡るのが基本だが、軌間が異なる国・地域に関してはその区間専用の車両が用意された。例えば、起点となったポルトガルとその隣国スペインは、ほかの欧州各国が採用する標準軌(1435mm)ではなくイベリアゲージと呼ばれる広軌(1668mm)であるため、リスボンを発車した客車はフランス国境までの運転で、そこで標準軌の各国を回る編成に運行を引き継いだ。バルト三国(1520mm)も専用の車両で運行した。
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