築40年超「老朽マンション」丸ごと建て替えの顛末 イトーピアがブリリアタワーに生まれ変わる日

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だが、賛成率が規定に届かず、否決に。反対票は多くなかったが、建て替えに関心を持たず、賛否を表明しなかったオーナーがいたためだ。「理事会とオーナーとの間でコミュニケーションが不足していた」(林さん)。建て替え説明会は総会直前に開催したきりで、無関心層への接触が不足していた。

まとまりかけた意見を無駄にしたくない、と当時理事だった林さんは理事長に名乗りを上げた。就任後に意識したのは人任せにしないこと。イトーピアは賃貸住戸が大半で、オーナーの8割以上は外部に居住していた。これまでの理事会では、遠方のオーナーとの連絡はコンサルタントに任せがちで、主体的に動く雰囲気ではなかったという。

そこで説明会のほかに、遠隔地のオーナーとはチャットで連絡を取り、時には海外の所有者に英語や中国語で建て替えの意義を説いた。行政との意見交換やセミナーにも頻繁に出向いた結果、建て替えに協力するデベロッパーのコンペを自ら開催できるほど、知識をつけた。

2015年秋からのコンペにはデベロッパー6社が名乗りを上げ、各社の提案を比較検討した結果、オーナーにとって最も条件のよい、東京建物を主体とするグループを選定した。

好況で一転、転出しないオーナー

建て替えが既定路線になりかけた直後、ある問題が浮上した。当初計画では、オーナーの20%は建て替え後のタワーマンションを保有せず転出する、というのが前提だった。ところが、マンション市況の好転などを受けて、保有を希望するオーナーが増加。2016年秋に行った意向調査では、転出を希望するオーナーは5%にも満たなかった。

困惑したのは東京建物だ。建て替えで増えた住戸を分譲することで収益を得る同社にとって、転出するオーナーの減少は販売住戸の減少を意味し、事業採算性が狂う。そのため、オーナー側に負担を求めた。

むろん、オーナーも易々とは譲れない。イトーピアは建て替えに際して容積率の割り増しを受けるが、その条件として各住戸の面積を25平方メートル以上にする必要があった。イトーピアには20平方メートルのワンルーム住戸が複数存在し、そのオーナーは当初から5平方メートル分の増床費用が持ち出しとなる。さらなる負担増はハードルが高い。

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