地下鉄新線「豊住線」東京メトロにもう一つの利点 利用者の利便性だけでなく運行、保守にも貢献

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さらに、「地下鉄は道路の下を通りますから、区道の下や、区の公園を一時使わせてほしいという話が今後出てきた場合は、施設管理者として鉄道事業に絡むことになると思います」ということであった。

また、費用負担に関しては、「今のところ見えていません。国と東京都、東京メトロで協議検討していくと思いますが、7月の答申の中で、『それら以外の支援も』とあったので、江東区にもお話が来れば、協議をしていきます」とのことだった。

江東区付近の交通は、東西方向に東京メトロ東西線やJR総武線、京葉線などの鉄道が存在するが、南北方向に至っては都営バスなどの路線バスに頼った移動しかなく、定時制など安定した輸送を考えると、豊住線の存在が不可欠であり、地元住民の声も相俟って豊住線の建設推進運動の声は日増しに高まっている。

それらの影響も受けて、国土交通省の有識者会議は、国と都はそれぞれが保有している東京メトロ株の半分ずつを売却し、上場させることによって多様な株主を受け入れ、当面は経営を支える状態を保ったまま、サービスの質を高め、豊住線などの延伸計画を実施できるよう促すという答申を2021年7月にまとめた。停滞していた豊住線計画の実現は再び存在感を増し、早期着工に向けて一歩進んでいるように思える。

車両運行や保守も便利に

この路線が完成するとどのような効果が得られるだろう。江東区周辺の南北移動だけでなく、電車は住吉から半蔵門線に乗り入れ、押上から東武スカイツリーラインにも入線できる。臨海地区と東武スカイツリーラインが直通し、埼玉県の春日部方面から臨海部のオフィスへの通勤も時間が短縮される。さらに豊洲から始発駅を新木場とすれば、京葉線に乗り換えて東京ディズニーランドや幕張新都心へも行くことができる。

朝夕に東武の直通可能な特急車両を使用した通勤特急や、休日に行楽特急の運転も可能で、それなりの利用客も見込めると思われる。

新線建設の目的は交通ネットワークの整備による利用者の利便性向上であり、利用者増による収入の予測と建設費用の試算の両面から検討が進められるが、ここでは、新線がもたらす鉄道会社へのメリットについて考えてみたい。

豊住線が完成すると、運行する東京メトロにとって車両の運行や保守を行ううえで便利になることが考えられる。

半蔵門線の車両基地は神奈川県の鷺沼にある「鷺沼車両基地」で、相互直通先の東急電鉄・田園都市線鷺沼駅に隣接する位置にある。元々は東急電鉄の検車区として運用されていたもので、車両基地に入るためには東急田園都市線を通らなくてはならず、仮に田園都市線に支障が生じると、半蔵門線車両は地下区間で折り返し運転をしながら復旧を待つほか、南栗橋にある東武鉄道の車両基地で待機する状態となる。車両を留置できる場所が直通する乗り入れ路線にしかないのがネックで、ラッシュ時などは通常ダイヤに戻すまで時間を要してしまう。

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