「たかが片頭痛」と軽視する日本人に伝えたい事実 富士通など対策に動き出す企業も登場

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「痛みが半分というと、大したことはないと思うかもしれません。しかし、痛みが半分になれば、寝込むほどの痛みからは解放されます。そうすると頭痛体操やエクササイズなど、動くことによって頭痛を軽くするセルフケアもできるようになります。患者さんにとっては大きな意味があると感じました」(坂井さん)

2019年に開催された日本頭痛学会では、治験に参加した患者の報告として、「頭痛が半減し、人生が戻ってきた」「頭痛のためにこれまで家庭生活や、社会生活をいかに犠牲にしてきたかわかった」といった声が紹介された。

「もう1つ、この予防薬で大きいのは、患者さんの不安を取り除ける可能性があるということです。多くの片頭痛の患者さんが困ってるのは、痛みもさることながら、『いつ痛みが来るかわからない不安』です。抗CGRP抗体で予防が可能になったことで、こうした不安もずいぶん取り去ることができているようです」(坂井さん)

「頭痛ダイアリー」で痛みの傾向をつかむ

新薬の登場で片頭痛を取り巻く環境は大きく変わりそうだが、もちろん、セルフケアによる片頭痛対策も欠かせない。特に坂井さんが勧めているのは、「頭痛ダイアリー」をつけて、どんな状況だと痛みが起こるのか、自身の痛みの傾向をつかむことだ。

「片頭痛は脳が過敏に反応してしまうことで起こりますが、その刺激となる原因は人によってさまざまで、体質なども影響します。一般的に片頭痛や季節の移り変わりや気圧の変化、ストレス、睡眠不足、食事(チョコレート、ワイン、チーズなど)といったリスクファクターがきっかけになるといわれています。頭痛ダイアリーをつけることで、自分にとって問題となる要因を探し出せれば、その要因を避けることができ、片頭痛を起こりにくくすることも可能です。薬とセルフケアはセットで考えていくことが大事です」(坂井さん)

さらに、片頭痛患者に対する家族や社会の理解や支援も必要で、実際、従業員の頭痛対策に取り組み始めた企業も現れている。

「ずっと頭痛で困っていたんですけど、治していくという知識がなかった。今回、会社の『頭痛相談』を受けて、初めて自分の頭痛が片頭痛だってわかりました」

こう話すのは、富士通(東京都港区)に勤める女性。長年の頭痛持ちで、自宅にはもちろん、通勤用のバッグにも必ず2回分の頭痛薬を用意。ひどいときは週に2回は頭痛薬を飲んでいた。今回、会社が頭痛相談を開いていることを知り、申し込んだという。

頭痛相談は専門の医師が対応し、オンラインで20分間行われる。相談者が事前につけておいた頭痛ダイアリーを参考に、生活改善のポイントや頭痛体操のやり方などを指導したり、必要に応じて病院への受診を勧めたりする。

「頭痛は、眼科や歯科のように通って治していくものという知識がなかった。今回、頭痛相談でお医者さんから、『そのつらさがなくなるかもしれないから、通院してはどうか』という提案をいただき、それで病院に通うことにしました。このきっかけがなければ、病院に行くことはなかったと思います」(先の女性)

次ページ2020年度から富士通では「頭痛プロジェクト」が始動
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