ソニー復活を決定づけた「技術重視」からの大転換 存在意義を問い直し価値観を明確に再定義した

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ソニーの復活に向けてさまざまな解説がなされています。いろいろな要因が重なっているのは間違いないのですが、以前のソニーはテクノロジーやプロダクトとしての優位性や競争力、また財務リターンといったものにより価値を求め、それで企業価値を向上させようとしていたと思います。

「PlayStation」は任天堂という強力なライバルがいたからこそ、それを超えるグラフィック性能やそれを可能とする半導体の性能で差別化しようとしていました。そのやり方が限界を迎え、2003年、「ソニーショック」を引き起こしました。

その呪縛から抜け出すには長い時間が必要でしたが、近年のソニーの製品を見ると、単なるテクノロジーのアピールではなく、ユーザー視点でビジネス設計をする事業が多く出てきています。

PlayStationのゲーム事業もそうですし、半導体、カメラ事業、コンテンツ事業、すべてが存在意義を意識した形で事業の意思決定がされているように思います。

デジタル画像の目であるCMOSイメージセンサー(半導体回路)は、求められる市場を探し、その市場に合わせて価値を高めていこうとしています。

ゲーム事業もプレイステーションのグラフィック能力をアピールするのではなく、ユーザーが楽しむためにはどうすればよいのか、という軸で事業設計がされるようになっています。

最高のテクノロジーありきで勝負していない

これは実に大きな考え方の構造転換です。最高のテクノロジーを詰め込むよりも、値付けを「ユーザーが求める価値を実現するスペック」と考え、いかにユーザー(=消費者)がこのサービスや商品に熱狂し、共感し持続的に楽しんでもらえるのかということを軸に考えるようになっているのです。

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テクノロジーはあくまでもそれを支える基盤であって、テクノロジーが最高だから消費者への提供価値が最高であるという発想は捨て去っています。

ソニーの復活は、大きな事業構造の転換、財務的な規律を取り戻した、ゲーム事業など事業の復活、などと言われることもありますが、本質的には価値観をテクノロジーから消費者や社会に変化させるという大きなパラダイムシフトの結果だと思います。

テクノロジーや財務戦略などはあくまでもそれを支えるためのツールでしかないのです。例を挙げるとキリがありませんが、存在意義を軸に経営の方向性を明確に打ち出し、再生した好例と言えるのではないでしょうか。

村上 誠典 シニフィアン共同代表

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むらかみ たかふみ / Takafumi Murakami

1978年、兵庫県生まれ。シニフィアン株式会社共同代表。東京大学・宇宙科学研究所(現JAXA)を経て、ゴールドマン・サックス証券に入社。東京・海外オフィスにてM&A、資金調達、IR、コーポレートファイナンスの 専門家としてグローバル企業の戦略的転換を数多く経験。2017年に「未来世代に引き継ぐ産業創出」をテーマにシニフィアンを創業。独立系グロースキャピタルを通じたスタートアップ投資や経営支援、上場 /未上場の成長企業向けのアドバイザリーを行う。

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