自動車業界の業績は回復基調に入ったが、収益の本格改善はこれからが正念場《スタンダード&プアーズの業界展望》
米国市場では、リコール問題で揺れたトヨタ(AA/ネガティブ/A−1+)をはじめとする上位メーカーの間で、この春インセンティブ(販売奨励金)を積み増す動きがあったが、それでもブランドへのマイナス影響を避けるために節度ある販売戦略が維持されており、インセンティブをさらに大幅に積み増すことは想定しにくい、とスタンダード&プアーズはみている。
このため、ここでも収益性の回復へのカギを握るのは販売の回復であり、特に、輸出販売台数の維持・回復が国内の工場稼働率を適切な水準に維持するために重要になるであろう、とスタンダード&プアーズは考える。
円高も、海外での競争力や収益性に悪影響を及ぼしかねないリスクとみている。世界的に事業を展開する自動車メーカーにとって、為替変動は避けて通ることのできないリスクであるため、特に国内の上位メーカー3社は、従来から現地生産や現地調達を進めることで、グローバルでの競争力強化と為替リスクの軽減を図ってきた。
成熟した先進国市場に代わって、新興国市場の収益面での重要性が以前にも増して高まり、各社が新興国市場への取り組みを一段と加速させるなかで、中長期的に為替リスク対策はさらに進むだろう。
だが、国内市場で需要の成長が見込めないなか、国内生産能力と一定程度の稼働率を維持するためには輸出に頼らざるをえない事情があるため、自動車メーカーにとって為替変動リスクを中期的に著しく軽減することは困難だろう。また、鋼材を中心とする原材料価格の上昇が見込まれることも、リスク要因となろう。
一方、需要の回復が緩やかでもある程度の業績回復につなげることができる収益構造への体質改善が進んだことから、需要面での不透明要因は残るものの、緩やかながらも収益とキャッシュフローの回復が持続する見通しである、とスタンダード&プアーズは予想している。このため、日本の自動車メーカーの財務プロフィールが11年3月期に再度、大幅な悪化に転じる可能性は低いとみている。
10年3月期のキャッシュフローは、在庫圧縮による運転資本の削減と設備投資の大幅な抑制等を柱に急回復した。中でも、トヨタ自動車は2度にわたる格下げの後でも、非常に強い財務プロフィールを維持している、とスタンダード&プアーズは評価している。とりわけ流動性は、10年3月期の1年間に急ピッチで改善し、きわめて潤沢な水準を回復した。