「ワクチン開発立役者」カリコ氏が逆境に勝てた訳 「研究は私の趣味」お金をそれ以外に使わなかった
mRNAの研究で新しいタンパク質の生成に成功
そもそもカリコ氏がmRNAに興味をもったきっかけは、ハンガリー時代にさかのぼる。博士課程の担当教官から、RNAの存在と量などを明らかにするためのシーケンシング(遺伝子の正確な配列を調べること)を依頼するために、アメリカ・ニュージャージー州にある研究室に生体サンプルを送ってくれと頼まれたことだった。カリコ氏はこの種のRNAが薬として使用できるかもしれない、という可能性にひかれたのだ。
カリコ氏はペンシルベニア大学のバーナサン氏のチームで、mRNAを細胞に挿入して新しいタンパク質を生成させようとしていた。実験のひとつは、タンパク質分解酵素のウロキナーゼを作らせようとしたこと。もし、成功すれば、放射性物質である新しいタンパク質は受容体に引き寄せられる。
放射性物質の有無を測定することで、特定のmRNAから狙ったタンパク質を作り、そのタンパク質が機能を有するか評価できるのだ。
「ほとんどの人はわれわれを馬鹿にした」(バーナサン氏)
ある日、長い廊下の端においてあるドットマトリックスのプリンターをふたりの科学者が食い入るように見つめていた。放射線が測定できるガンマカウンターの結果が、プリンターから吐き出される。
結果は……その細胞が作るはずのない、新しいタンパク質が作られていた。つまり、mRNAを使えば、いかなるタンパク質をも作らせることができる、ということを意味していたのだ。「神になった気分だった」カリコ氏はそのときのことを思い返す。
「mRNAを使って、心臓バイパス手術のために血管を強くすることができるかもしれない」「もしかしたら、人間の寿命を延ばすことだって可能になるかもしれない」
興奮したふたりは、そんなことを語り合った。つまりこれが、ワクチン開発の肝となる、mRNAに特定のタンパク質を作る指令を出させる、という最初の発見だったのだ。「ケイト(カリコ氏)は本当に信じられないほどすばらしいんだ」とバーナサン氏は言う。
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