ドイツ鉄道スト、「労組間の勢力争い」の深刻度 コロナ禍で決行は乗客無視、長距離列車7割運休

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この状況でベルリンを目指すということは、わずかな普通列車を乗り継ぐしかない、ということでもある。ドレスデンから乗車した普通列車REは、週末朝のローカル列車とは到底思えないすべての座席が埋まった状態で発車。デッキ付近にある荷物置き場にはスーツケースなどの大きな荷物がたくさん積まれており、長距離移動の乗客が多いことは明白だ。

ライプツィヒ行きローカル列車は長距離移動の利用者で週末の朝とは思えない混雑(筆者撮影)

優等列車なら1時間程度で移動できる終点ライプツィヒ中央駅まで、たっぷり1時間半をかけて到着。駅の情報端末で次に乗る列車を調べると、地下ホームから発車する近郊列車Sバーンで50kmほど離れたハレまで行くよう表示された。しかし乗り換え時間はわずか数分、まるで綱渡りのようだ。

駅の情報ではハレでベルリン行きのICEに乗り換えることになるが、乗り換え時間はわずか1分。それを逃せば次の列車はいつになるかわからない。ただ、乗り換えるICEが何番線から出るのかわからない。駅の掲示板で確認し、ほかの乗客と共に地下通路を走る。すでに発車時刻を2分回っていたが、列車はまだ停車していた。ストを考慮して乗り継ぎの便宜を図ってくれたのか、単に遅れていたのかは不明だが、とにかく予定の列車をつかまえることができた。

ストは避けられなかったのか?

ICEは立ち客が出るほどの満員状態でハレを発車、ベルリンには定時の12時15分に到着した。本来の直通列車より1時間半余計にかかったものの、どうにかたどり着くことができた。

数少ないICEも長距離移動客で混み合っていた(筆者撮影)

だが、チェコへ戻る列車も「運行状況は変わる可能性がある」というドレスデン方面の特急列車ICが1本表示されるだけで、何とも心許ない。一方、高速バスはほとんどの便が満席となっていた。鉄道の長距離旅客がバスへ流れたわけだ。結果的にICは運転されていたため、どうにかプラハに戻ることができたが、まさに冷や汗の連続であった。

GDLとドイツ鉄道の交渉が膠着状態となる中、ついに連邦政府は両者に対し、乗客や経済への悪影響を留めるよう訴えた。アンゲラ・メルケル首相は、原則としては交渉に直接干渉することはないとしながら、「すべての立場の人にとって実行可能な解決策が早く見つかること」を望んでいると述べた。9月16日、GDLとドイツ鉄道はコロナ禍の影響によるボーナス支給や段階的な賃上げなどで合意した。

ストライキは労働者の権利だ。その行動そのものに口出しするつもりはないが、コロナによる自粛や規制が続く中、今回のようなストはどうにか避けることはできなかったのかという疑問は残る。2m以上の間隔を空けたり、乗車人数、入店人数に制限を設けたりといった「お願い」をされても、このような全国規模ストの混乱下では守ることなどできるはずもない。現在の世界情勢を鑑み、労組間の勢力争いともいえるような理由によって利用者に大きな負担を強いるストは極力避けてほしいと願うばかりだ。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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