ドイツ鉄道スト、「労組間の勢力争い」の深刻度 コロナ禍で決行は乗客無視、長距離列車7割運休
今回のストでは、従業員がEVGに属している会社や部署は影響を受けなかったが、列車の運転のみならず、例えば車庫から車両を出庫させ、駅へ回送する操車係や、工場で清掃や点検をするメンテナンス係なども関係してくるため、組合員数が少ないGDLのストでもドイツ全土に多大な影響を及ぼすことになった。
ストライキの影響を受けた乗客たちからは、当然ながら多くの不満の声が上がった。連邦政府副議長のルーカス・イフレンダー氏は「多くの乗客が我慢の限界に達している」と語り、鉄道を利用したいと考えている人が多数いる今、こうした論争は国民の理解を得られないと批判。乗客団体「Pro Bahn」は、早期解決のため賃金問題の当事者に対し交渉のテーブルに戻るよう呼びかけた。
今回のストは、表面上は旅客列車の運行停止に伴う旅行者という部分が目立つが、それ以上に大きな損害を被ったのが、ドイツ国内だけで1日約100万トンが輸送される貨物だ。ドイツで運行される貨物列車のうち、約43%がドイツ鉄道子会社DB Cargoにより運行されており、ストによる影響は甚大なものとなった。鉄道を使って貨物輸送する企業にとって、ストによるサプライチェーンの停止は、コロナ危機後の景気回復に水を差すことになり、経済へ悪影響を与えるとの声も上がっていた。国際貨物も多く運転されていることから、周辺国企業にも少なからず影響を与えた。
スト決行中のベルリン行き
では、スト決行中のドイツの鉄道はどのような状況だったのか。筆者は居住地であるチェコの首都プラハから毎日運行している国際列車ユーロシティに乗車し、ドイツの首都ベルリンを目指した。
通常ならプラハ中央駅(本駅)を朝6時26分に発車する始発列車に乗車すれば、10時47分にはベルリンに到着できる。ところが駅で電光掲示板を確認すると、行き先はドレスデンになっている。一方で、ホームに入ってきた列車の行き先表示にはベルリンと書かれている。いったいどちらが正しいのだろうか。
チェコ国内は大きな遅れもなく、列車は極めて順調にドイツへ向けて走る。国境を越えてドイツへ入っても様子は変わらなかったが、検札に回ってきたドイツ鉄道の車掌が「この列車はドレスデンで終点だ。ベルリンへ行くなら、下車してから駅の窓口で聞いてくれ」という。ドレスデン中央駅に列車が滑り込むと、確かに「ここで終点」と放送が流れ、電光掲示板も終点を表示していた。
ドレスデンは人口約51万人を抱えるザクセン州の州都。同州では人口約60万人のライプツィヒに次ぐ大都市で、普段の中央駅は多くの人で賑わう。だが駅構内に人はまばらで、週末とはいえかなり少ないことが一目でわかる閑散ぶりだ。コンコースの発車案内にICE(高速列車)やIC(インターシティ、特急に相当)といった優等列車の名はなく、表示されているのは近郊列車と都市間を結ぶローカル列車のREだけで、その本数も平時と比較して明らかに少ない。
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