中国恒大集団はリーマンショックの再来を招くか みずほ証券ストラテジストの大橋英敏氏が解説

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――「3レッドライン」は日本のバブル崩壊のきっかけともなった総量規制を思わせますね。不動産市場や金融システムへの影響は?

確かに「3つのレッドライン」の導入で、中国の不動産開発会社には逆風が吹いているが、「3つのレッドライン」は不動産デベロッパーへの規制強化が主目的というよりも、不動産価格上昇を抑制すること、そのために不動産デベロッパーが乱開発できないようにすることが目的であり、さらに何よりも重要なのは、不動産開発大手の経営危機が生じれば社会的影響が大きいとされたために導入された。政府が不動産価格下落を容認しているとの論調も多いが、リスク要因に対する先行手段として実施されたことを理解したい。

主要統計を見る限り、国全体の不動産価格、特に住宅価格が下落しているわけではない。「3つのレッドライン」にはバブル潰しとは逆に、不動産市場を安定化させる狙いもある。安定した価格で良質な住宅はこれからも供給していかなくてはならないというのが中国政府の考えで、不動産市場の暴落は望んでいない。中国政府は1990年代の日本のバブル崩壊の過程も研究し尽くしている。

結論から言えば、この企業そのものはなくなっても、資産負債の整理を行って、金融システムへの波及や不動産市場の暴落といった事態は避けるだろう。秩序立った債務再編と企業再編を進めるということだ。保有不動産が強制売却されたり、それによって不動産市況が悪化することは起きても、局所的、限定的とみている。結局、中国の国内問題として処理され、国際市場に波及するリスクは小さい。

国際市場は鈍感、中国の景気減速の影響には注意

――中国政府の狙いと裏腹に国際金融市場が反応して混乱する可能性はありませんか。

⼀時的な市場混乱は否定しない。むしろ、グローバル金融市場が今のところ冷静で、中国の景気引き締めに対しても鈍感なのが気になっている。グローバル金融市場は中国の動向に対し基本的には鈍感でありながら、いったん懸念し始めると過度に「悲観的」に振れる傾向がある。2021年以降は中国のクレジット・インパルス(総債務残高対GDP比の前年差)がマイナスに転じている。政策的に与信引き締めが行われ、これによる景気減速を政策として容認しているとみるべきだ。

クレジット戦略の観点で見れば、市場価格が大きく変動した場合でも、リーマンショックのようなことが起きる可能性は低く、逆張り投資の好機とみている。しかし、中国の景気減速の世界経済への影響は侮れない。すでに不動産以外の分野でも、与信引き締めを通じた影響は出始めている。中国の財政・金融政策、マクロ経済指標、金融システムの安定性はつねにウォッチしておく必要がある。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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